山本周五郎著「ひとごろし」2010年11月25日

 8日間のスペイン旅行の期間中の読物用に文庫本二冊を持参した。往路の機内とスペイン国内の長い移動時間で帰路についた時には二冊とも読み終えていた。その内の一冊が山本周五郎の短編10篇を収めた「ひとごろし」だった。
 山本周五郎の昭和20年代から30年代にかけての時代小説の作品群である。「武家もの」「岡場所もの」「こっけいもの」など10篇の内容は様々である。個人的には「武家もの」の内の「女は同じ物語」「しゅるしゅる」「改訂御定法」の三篇がお好みだった。
 山本周五郎の武家ものの主人公には千石、二千石の家老職を務めるような藩の筋目の家柄の者が比較的多い。三篇の作品の主人公も然りだ。藤沢周平の武家ものの主人公が貧しい下士が多いのと好対照だ。
 「女は同じ物語」は武家の上流階級の跡取り息子の結婚を巡るほほえましい物語である。「しゅるしゅる」は江戸勤番時代に幼馴染だった男女が成人し、国許で城代家老と娘たちの躾け係の老女として再開し反発しあいながらも結ばれる様を描いている。「改訂御定法」は行き過ぎた藩政改革に異を唱えて閑職に追いやられた元序席家老が、ある事件をきっかけに改革の行き過ぎ部分を明らかにし藩の危機を救う推理小説数の物語だ。いずれも男女の機微をユーモアを織り交ぜてほほえましく描きながらテーマをきっちり表現している。一気に読める娯楽小説だった。