NHKスペシャル「アジア巨大遺跡 第4集 縄文 奇跡の大集落」2015年11月10日

 「NHKスペシャル・アジア巨大遺跡」の4集に渡るシリーズを興味深く観た。とりわけ第4集の「縄文 奇跡の大集落 ~1万年 持続の秘密~」は、かねてから日本人の精神風土の原点としての縄文時代の独自性に関心を寄せていたこともあり、大いに共感しながら観終えた。見応えのある好番組だった。
 番組は冒頭からいきなり縄文時代の土偶が世界的なオークションで1億9千万円もの高額で落札された場面で始まる。それほどに今や日本の「縄文」が世界的な注目を集めているという。近年、縄文文化に関して西洋の考古学の枠組みを覆すような発見が相次いでいる。注目ポイントはその文化の途方もない持続性にあるという。なぜ縄文人は1万年以上に渡って崩壊することのない持続社会を築き上げられたのか。番組はその謎に迫る。
 縄文文化の象徴は青森県の巨大遺跡・三内丸山である。巨大な6本の柱が並ぶ木造建造物や長さ32メートルもの大型住居など20年を超える発掘から浮かび上がってきたのは、従来の縄文のイメージを覆す巨大で豊かな集落の姿だった。
 縄文人が本格的な農耕を行わず、狩猟採集を生活の基盤としながら、1万年もの長期にわたって持続可能な社会を作りあげていたという事実は、農耕を主軸に据えた従来の文明観を根底から揺さぶっている。欧米の専門家が語る。「通常、農耕民族が行う集落の発展を、縄文の狩猟採集民が成し遂げた。その意味で縄文人は世界で最も豊かな狩猟採集民だった」。
 発掘された縄文土器には煮炊きの痕跡がある。縄文人の食生活は煮炊きをすることで大きく変わった。ドングリや栗などの木の実や魚介類の食用が一気に広がった。それによって縄文人は農耕に頼らない定住生活を実現していった。狩猟採集民が多くの人口を養う持続可能な社会をつくり出した。
 なぜ縄文人は既に半島まで伝わっていた農耕を受入れる選択肢を選ばなかったのだろうか。氷河期末期以降の気候の温暖化によって日本は落葉広葉樹の豊かな森に覆われるようになった。更に日本海の暖流によって春夏秋冬の変化に富んだ四季が生まれた。縄文人はこの四季に合わせて持続可能な豊かなライフスタイルを実現した。春の山菜取り、夏の漁労、秋の木の実取り、冬の狩猟といった具合である。これが農耕という自然を破壊することがスタートとなる暮しでなく、狩猟採集民として自然と共存しその恵みを取り入れて暮らすという賢明な選択を可能にした秘密である。
 その縄文文化は、水田による米作りを行う弥生時代の到来によっておよそ2300年前に終わりを告げる。なぜ縄文人が農耕を受入れたのかは分からない。以後、社会に富が蓄積され国家が生まれ、縄文の名残りは駆逐されていく。
 
 今、新書「里山資本主義」を読込み、書評を綴っている。それは森の恵みがもたらす資源の再利用による経済の再生物語である。富の蓄積を生み出した弥生文化を起点とした人類文明の到達点がマネー資本主義だとすれば、里山資本主義は2300年以前の縄文文化に学ぶ営みなのだろうか。