高橋克彦著「時宗(巻の四・戦星)」2015年12月20日

 高橋克彦の「時宗」の最終巻(巻の四・戦星)を読み終えた。「時宗」の標題に連想される史実故にこの作品を読むことに多少の抵抗感があった。 多くの日本人の脳裏には、日本史上最大の国難・元寇は、「神風」によって救われ、神国・日本の神話の根拠となった出来事として刻まれている。それは第二次大戦に突き進むバックボーンとなった「神国思想」を連想させた。過去しばしば時宗は神国日本を背負った英雄として描かれた。
 完結編を読み終えてこうした予断は見事に裏切られた。作者は文永・弘安という二度の蒙古軍の襲来を、北条時頼、時宗親子を中心とした鎌倉幕府による長期にわたる周到な準備を整えた上で迎え撃った戦さとして描いている。
 18歳で第8代執権職となった時宗は、2度にわたる蒙古軍との闘いのためだけに費やされたと生涯と言って過言でない。執権職を継承したその年にクビライの蒙古への服属を求める国書が鎌倉に届けられる。その6年後に文永の役を迎えてこれを撃退し、さらにその7年後に訪れた弘安の役でも総力を挙げた迎撃戦の末の台風で蒙古軍を壊滅させる。その3年後に時宗は34歳の若さで唐突にその生涯を終える。
 たった4頁の最終章「涼風」に、時宗を評した印象的な文章がある。「この戦さを成すために天が授け、そして天に戻された者であったような気がしてならない。時宗の34歳の生涯は戦を道連れにしたものだったのだ。そして、役目を果たしたゆえに天は静かに時宗を迎えたのではないか?」。