長尾和弘著「平穏死10の条件」2016年07月20日

 在宅医として介護の現場から患者・介護者視点に立ってアクティブに発信し続ける長尾医師の著作「平穏死10の条件」を読んだ。
 つい40年ほど前までは自宅で亡くなる人が当たり前だった。ところが今ではわずか2割となり、8割の人が病院で亡くなっている。1970年代後半にその割合が逆転したという。今や日本では自宅での穏やかな死は叶わぬ夢になりつつあると言ってよい。この著作はこうした背景を踏まえて平穏死(穏やかな死)できない現実を指摘し、平穏死を迎えるための処方を提案する。
 平穏死できない現実とは、8割の人が病院で亡くなっている現実と無関係ではない。終末期の患者が病院に入院すると必然的に延命治療が行われるからだ。そして一度延命治療が始まると本人や家族が途中で中止を希望してもそれが困難であるという現実もある。
 平穏死を迎えるための次のような条件が提案される。「看取り実績のある在宅医を探す」「本人・家族が死後の準備について話し合う」「平穏死させてくれる施設を選ぶ」「リビングウィルを表明する」「転倒→骨折→寝たきりを予防する」「救急車を呼ぶことの意味(蘇生、延命治療を希望するという意思表示)を考える」「緩和医療の恩恵にあずかる」等々。
 とりわけリビングウィル(生前の遺言)ということに注目した。終末期に延命治療を拒否し穏やかな最期を迎えたいと思ってもそれが中々叶わないという現実はよく耳にする。ましてや認知症で自分の意思をはっきり伝えられなくなる懸念があれば尚更である。そのための処方として日本尊厳死協会に加入し、延命治療に関する自分の意思をリビングウィルとして健康なうちに書面で残しておくことが必要だ。