27歳の孤高のレジェンド2016年08月12日

 リオ五輪の体操男子個人総合で内村航平が前回に続いて金メダルを獲得した。この優勝で内村は世界選手権と合わせて8大会連続で世界の頂点に立ち続けている。日本人アスリートとしては今最も輝いている選手と言って過言でない。金メダルを争ったライバルのベルニャエフ(ウクライナ)をして「航平さんを一生懸命追っているが簡単じゃない。この伝説の人間と一緒に競い合えていることが嬉しい。世界で1番クールな人間だよ」と言わしめた。今や内村は世界の舞台で伝説の人(レジェンド)となっている。
 8大会連覇のスタートは20歳の時の2009年世界選手権である。以来、世界選手権6連覇とロンドン、リオの五輪連覇で7年間に渡ってトップに君臨し続けている。7年間もの間、世界の頂点に立ち続けるためには想像を絶する努力があった筈だ。競技内容のたゆまない進化を誰もが認めるかららこそのレジェンドなのだろう。
 早朝のライブ映像をはじめ彼の決勝の舞台の映像に何度も見入った。ベルニャエフとの息詰まるような歴史的な名勝負を最後の鉄棒の演技での劇的な大逆転で制した。鉄棒の最後を両足を揃えた微動だにしない見事な着地で終えた瞬間だった。両拳を挙げてガッツポーズを示しながら瞬間的に瞼を閉じた。「美しい体操」をめざして極め続けた技と精神力が見事に結実し、その満足感に満たされた瞑想のように見えた。直後に「美しさの向こうにある何かが見えた」とコメントした。極めた果ての孤高の言葉だろうか。とは言え彼は弱冠27歳の若者である。若者のセルフとも思えないその成熟した言葉に王者の孤独を垣間見た。
 孤高の王者の後をようやくベルニャエフという優れたライバルが迫ってきた。世代交代という苛酷な現実を素直に喜んでいるかのようなコメントは、孤独な自らとの闘いの重荷を降ろせるという安堵の想いがなかっただろうか。リオ五輪映像の中でも最も感動的なドラマを堪能した。