鎌田實著「下りのなかで上りを生きる」2016年12月19日

 鎌田實著作の「下りのなかで上りを生きる」を読んだ。直前に読んだ「〇に近い△を生きる」という著作の姉妹編である。ポプラ新書の同じ装丁で内容の切り口も似通っている。
 この作品の最大の特徴は、著者の政治的、経済的立ち位置が極めて明快に表明されている点だろう。「グローバリズムと金融資本主義に翻弄されて、地域や家庭や教育や環境が壊れかけている。個人主義が広がり、競争至上主義が暴れまわり、価値観は多様化している。人間の心がささくれ立っている」という現状認識は、アベノミクスをはじめとした今日の主流をなす新自由主義への異議申し立てである。
 その上で「1~2%の経済成長を目指しながら、できるだけ多くの人がまあまあの生活を送れるような成熟社会づくり」を訴える。それは「右肩上がりの経済の中で身につけた上り坂を生きる思想はもう古い。日本もゆるやかな下り坂に差し掛かっていると考えた方がいい」という問題意識につながっている。
 私たちを取り巻く社会経済環境が下り坂であるなら、多くの人の人生もまた下り坂に包まれかねない。そうした「下りのなかで上りを生きる」ための6つの智恵やパワーが章に分けて語られる。楽観力、回転力、潜在力、見透す力、悲しむ力、突破する力である。
 著者はあとがきの最期をこう結んでいる。「国の勢いが衰えていても、日本の経済がゆるやかな下り坂に差し掛かっても、自分の人生が少しずつ黄昏に近づいていても、そこには上り坂では見えない光景や楽しみがある」。同感である。