乙川優三郎「露の玉垣」2017年02月10日

 日々の読書が蔵書の再読に戻って2冊目を読了した。乙川優三郎の「露の玉垣」である。時代小説とばかり思っていたが歴史小説である。しかも単に史実を素材にして物語に仕上げるという通常の歴史小説よりもはるかに史実に密着した「武家社会の実像」を描いた物語である。江戸幕府の開闢期から明治初年まで実在した越後・新発田藩に残された藩の正史「世臣譜」を忠実に物語に紡いだ労作である。
 「世臣譜」は江戸後期に新発田藩家老として藩の苦難に立ち向かった溝口半兵衛長裕によって編まれたものである。「露の玉垣」には、この半兵衛長裕を影の主人公として「世臣譜」のから紡ぎ出した8編の短編が納められている。決して英雄伝説でない生の武家社会の日常生活の出来事や事件を丹念に描いた連作歴史小説である。それでいてそれぞれの物語には情感豊かな風景と武家社会を生きる男女の葛藤がテーマ性豊かに描かれている。
 関わっている地域活動に次々と難題が持ち上がっている。そんなストレスの多い日々に潤いと意欲の喚起をもたらす作品に癒された。