乙川優三郎著「屋烏(おくう)」2017年02月23日

 乙川優三郎作品の再読に嵌っている。三作目は5編の短編を納めた時代小説「屋烏(おくう)」である。
 5編の内最も魅かれたのは何といっても表題作「屋烏」だった。冒頭でのヒロイン揺枝(ゆえ)の与四郎との出会い。曲折を経て辿り着いたラストシーンでの同じ出会いは、ともに小高い海神山頂きの海を臨む茶店である。この印象的な風景描写をはじめ情感あふれる情景描写は作者の真骨頂である。揺枝と与四郎のそれぞれを取り巻く苛酷な現実が巧みな伏線となってラストシーンに繋がっていく。ラスト2頁に至った時、思わず涙してしまった。齢を重ねて感動することが稀になった今、久々に蘇った新鮮な感情に我ながら驚いた。

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