五木寛之著「日本玄論・漂泊者のこころ」2017年05月27日

 知人のブログで紹介のあった作品である。ブログの記事内容に共感したこともさることながら、作品内容のタイトルの「隠岐共和国」「柳田国男と南方熊楠」「かくれ念仏」「蓮如」に魅かれた。どれも個人的に知りたいと思っていたことばかりだった。
 納められた9篇の著述は全て五木寛之氏の講演やインタビューの収録である。冒頭の「隠岐共和国の幻」は幕末から明治にかけて隠岐の島に短期間成立した島民だけのコミューンについて語られる。個人的に現役の50歳前後の頃に何度も隠岐の島の島後を仕事で訪ねたがそうした歴史的事実に接する機会は全くなかった。それだけに思い入れもある隠岐の島のコミューンの話題は新鮮で驚きだった。
 柳田国男と南方熊楠の交流物語にも知的な好奇心を満たされた。往復書簡を題材に二人の巨人の人間臭い側面を描いて余りある著述だった。
 「『かくれ念仏』の系譜」は私にとってもゆかりのある浄土真宗の宗派の「正統と異端」に焦点をあてた興味深い内容だった。また一向宗が持つ三つの牙(思想的、政治的、経済的)の指摘にも納得させられた。
 三部に渡る「蓮如」の講演収録も説得力のある内容だった。作者が傾倒する浄土真宗の中興の祖についての講演である。作者が宗祖・親鸞以上に乱世の組織者・蓮如に共感を寄せていることが如実に表れている。蓮如に何よりも注目に値するのはオルガナイザー(組織者)としての資質であるとする。戦国の世に85歳まで生き5度結婚し27人の子をもうけたこと自体が自らの思想の普及者としての驚異的な条件を備えていた。今日の日本最大教団である浄土真宗の確立は蓮如の存在をぬきには語れない。この著述はその背景と要因を見事に描いている。