乙川優三郎「武家用心集」2017年08月29日

 乙川優三郎著「武家用心集」を再読した。様々な制約や仕来りに覆われた息苦しい武家社会を生きる8人の武家の男女の姿を描いた短編集である。それぞれの物語がさりげない日常を切り取って情感豊かに紡がれている。読後の余韻がじわっと心に沁みる珠玉の短編集である。
 巻末の解説が乙川優三郎という作家を巧みに表現している。「乙川の小説は思想が主題ではない。論理が主題なのでもない。人間の心の最も奥底に潜んでいる感情ないし情緒に形を与え、日本語の繊細な調べに乗せること、それが乙川の本当の目的ではないだろうか。(略)乙川優三郎にとっては、まず『言葉ありき』なのだ。言葉を核として、物語世界が生成され、醸成されていく。すなわち文学のあるべき姿がたち顕れてくる」。共感できる解説だった。
 1953年生まれの乙川優三郎は63歳である。その年齢の割に著作はそれほど多くない。むしろ寡作と言ってよい。20冊に満たない時代小説は読み尽した。数編の現代小説を読むことの逡巡がある。時代小説で培われた彼のイメージが壊されるのではないかという危惧がある。それほどに彼の時代小説は魅力的である。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック