浅田次郎著「五郎治殿御始末」2017年11月06日

 書棚の読みたい作家の作品の再読を読み尽した。やむなく個々の作品をさがして再読している。古希を越えた身では選択は年相応の好きなジャンルに限られる。かつて愛読した推理小説や海外の作品には手が出ない。
 そんな経過で手にした作品が浅田次郎著「五郎治殿御始末」だった。この6篇の短編小説集は千年続いた武士の時代の幕末維新の幕引きを巡る物語である。そうした特異なテーマに絞って様々な物語を紡ぎ出すこの作家の力量に舌を巻いた。
 なんといっても圧巻だったのは表題作の「五郎治殿御始末」だった。幕末に徳川政権に殉じた桑名藩の事務方上士であった岩井五郎治が主人公である。桑名藩の「始末」をやり遂げた後の自身の「始末」を鮮やかに描いている。桑名藩と岩井家と残されたたった一人の肉親の孫の「始末」を終えて行方知らずとなっていた五郎治の消息が孫のもとに届けられる。老骨に鞭打って五郎治は西南戦争に加わり白兵戦の中で討ち死にしていた。孫に託された遺品は生前に周囲から嗤われていた「付け髷」だった。この付けチョンマゲに込められた意味を作者は孫の述懐として次のように語る。「侍の理屈は、一筋の付け髷に如かぬ。侍の時代など忘れて、新しき時代を生きよ」。
 物語の最後に作者自身の想いが語られる。「もし私が敬愛する明治という時代に、歴史上の大きな謬りを見出すとするなら、それは和洋の精神、新旧の理念を、ことごとく対立するものとして捉えた点であろう]
。同感である。

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