山本周五郎著「小説・日本婦道記」2018年02月22日

 読みたい本が見当たらなくなっても、永年の日々の読書習慣はおいそれとはやめられない。もっぱら書棚にある蔵書の再読で過ごしている。その再読も好きな作家の作品は読み尽して今は山本周五郎作品を手にしている。その再読二作目が「小説・日本婦道記」である。
 この作品は昭和17年から昭和21年にわたって執筆された31編の読切連作のうち作者自身が選定した自信作のようだ。軍国主義が跋扈した当時の時代背景からすればこの時期に執筆できる作品の主題は限りなく限定されたことは容易に推測できる。その限定された主題をもとに尚質の高い作品を描くとすればどのようなものに仕上がるのか。
 一連の作品の主題は武家社会の掟の中で夫や子のために全身全霊で生き抜いた妻や母の物語である。見方によっては男社会にひたすら従順な生き方を礼賛する封建思想そのもとも言える。それでも作品に込められた主人公たちのすがすがしさ、強靭さ、矜持、哀しさはまぶしく輝いている。
 狭いストライクゾーンに見事に次々と投げ込んでくるストライクボールを唖然として見つめるばかりだ。