藤沢周平著「闇の梯子」2018年12月01日

藤沢周平著「闇の梯子」を再読した。ひょっとしたら再々読かもしれない。読書中の文庫本を読み終えて書棚から次の本を探すと、大量の蔵書の中からどうしても藤沢作品が目にとまる。古希を越えて久しくなる歳である。藤沢作品の穏やかで情緒に富んだ安心感に魅かれて手に取ってしまう。
 市井もの3編、武家もの2篇の短編時代小説を納めた作品集である。それぞれに江戸情緒豊かな描写で味わいのある物語が広がる。やっぱり安心して読み継げる作品群だった。
 5編の中で「入墨」が印象深かった。「入墨」は、家族に苛酷な運命を強いた無頼の島帰りの父親とその二人の娘たちの葛藤を描いた物語だ。身売りさせられた姉と姉に育てられ父親の絆の薄い、それだけに父親への想いが深い妹。落ちぶれた父親が娘たちの営む呑み屋で酒を施される。その卑屈で意地汚い惨めな描写に読者の苛立ちが募る。ところがその姉妹の絶体絶命の危機を救ったのはほかならぬ父親だった。そのどんでん返しの展開に読者は息を呑み癒される。