藤沢周平著「龍を見た男」2019年03月13日

 藤沢周平著「龍を見た男」を再読した。市井ものを中心とした9篇の短編集である。
 市井に生きるごく平凡な人々のちょっとした出来事をしっとりした情感を込めながら描かれた物語が次々に展開する。古希を越え後期高齢者と呼ばれる日が忍び寄る身には安心してその物語世界に浸れる作品群である。
 藤沢周平i時代小説の醍醐味のひとつに、けれん味のないリアリティのある描写があげられると思う。それを裏付ける時代考証の確かさがある。読者は安心して物語の舞台に身を置くことができる。この作品集はそうした実感を抱かせる作品群である。
 巻末の「切腹」はこの作品集で唯一の武家ものである。親友だった二人の男の屈折した友情を巧みなストーリー展開で描いた秀作だった。