本田一成著「写真記録・近江絹糸人権争議」2019年03月15日

 知人の國學院大學経済学部の本田一成教授から新著「写真記録・近江絹糸人権争議」を贈呈して頂いた。チェーンストア労働問題の研究者である氏とは二度に渡ってインタビュー取材を受け、更に共通の知人である山形県のあるチェーンストア労組の結成期メンバーたちとの懇親会でご一緒した。
 「近江絹糸人権争議」は私たちの世代では著名な労働争議のひとつとして知られている。とはいえ戦後間もない頃の争議であり、私にとっても記憶の片隅の出来事でしかない。そんな争議をなぜ今更取り上げられたのかという疑問がよぎった。
 この点について著者の「まえがき」では次のように記されている。きっかけは私も取材を受けて登場している前著「オルグ!オルグ!オルグ!」の記述の一環で近江絹糸人権争議にふれることになり関係する一枚の写真の掲載が必要になったということのようだ。そのため写真を所蔵する近江絹糸人権争議に関する2冊の著作の執筆者・朝倉克己氏と会うことになり、その出会いがこの著作執筆の契機となった。
 朝倉氏は、近江絹糸労組の結成に関わり彦根支部初代支部長として争議の中心人物のひとりだった。三島由紀夫の争議を舞台とした小説「絹と明察」の登場人物のモデルでもある。とは言え80代の高齢であるため、胸中にくすぶるまだ書き足りないという想いを本田氏に託されたようだ。朝倉氏の全面的な協力と所蔵する膨大な写真の提供を受けてこの著作が誕生することになる。
 著作の標題には「写真記録」の文字が付されている。著者の取材を通して朝倉氏だけでなく関係者から600枚もの写真が提供され、200枚が掲載されている。その結果200頁ほどの著作の60%以上もの頁がコメントのついた写真で埋められている。「目で見る近江絹糸人権争議」の性格の強い著作でもある。
 豊富な写真掲載という点だけでなく、既存の文献にない視点にも力点が置かれている。「企業再建闘争という側面」「彦根以外の多発的な争議の展開という側面」「争議手段の多面性」「争議を指導した上部組織である全繊線同盟についての記述」「争議の当初から内在していた対立構造」等である。
 久々に現役時代に労組結成に関わった自分自身の若かりき青春時代を思い起こしながら一気に読了した。