藤沢周平著「長門守の陰謀」2019年03月23日

 藤沢周平著「長門守の陰謀」を再読した。歴史小説1篇と時代小説4篇を納めた短編集である。4篇の時代小説は武家もの1篇、市井もの(人情もの)3篇という構成である。
 解説でも触れられているが、作者が得意とする歴史小説、武家もの市井もの時代小説のジャンルの秀作が凝縮して込められた短編集という趣きがある。
 さえない下級藩士の妻の目を通して描かれた痛快なお家騒動の物語「夢ぞ見し」。美貌で才気のある下町娘を巡るいなせでイケメンな若者と風采の上がらない愚図な若者の幼馴染み三人の葛藤物語「春の雪」。亡夫の幼い連れ子を育てながら女の幸せとの狭間で揺れ動く心情を描いた「夕べの光」。苦労を重ねてようやく小間物店を持つ身になった四十男が、突然巡りあった美貌の幼馴染みの罠にはまっていく「遠い少女」。そして表題作の庄内藩の世継ぎ問題を巡る史実をテーマとした歴史小説「長門守の陰謀」である。
 どの作品もそれぞれに心に沁みる共感をもたらしてくれる珠玉の名作だった。