北 重人著「汐の名残り」2019年05月04日

 北重人著作の「汐の名残り」を読んだ。再読2作目である。短編時代小説6篇を収録した物語集である。
 いずれも北前船が行きかう日本海に面した湊町が舞台である。作者の故郷である山形県酒田市が舞台背景に色濃く投影されている。作品には酒田市をモチーフとしたと思われる「水潟(みなかた)」という湊町がしばしば登場する。藤沢周平作品に登場する鶴岡をモチーフとした「海坂」を思わせる舞台設定である。
 6篇の短編集に共通するこの舞台設定は物語を構成する重要なファクターである。その苛酷な地理的要素や気候風土故に様々な物語が紡がれ波乱に満ちたストーリーが展開される。元遊女の料理屋の女将、行き別れた兄との邂逅を求める古手問屋の主、隠居した廻船問屋の女主、仇討の漂白の果てに故郷に戻った絵師、相場の修羅場に身を置く米問屋の主等々、多彩な人物像が描かれる。いずれも過酷な運命の果てに辿り着く安逸の世界に読者を和ませる。