長尾和宏著「痛い在宅医」2019年09月13日

 長尾和宏著「痛い在宅医」を読んだ。鋭い問題提起を提示したセンセーショナルな著作である。経験豊富な町医者で在宅医でもある著者が現状の日本における在宅医療の在り方や問題点を赤裸々に語っている。在宅での穏やかな死を本気で考えている私にも今一度その選択の是非を問い直させられた著作である。
 作品は、末期癌の父親を在宅で看取った娘の看取りの記録を材料に著者とのやりとりを綴ったドキュメンタリーとして描かれている。娘は長尾医師の多くの著作を読み在宅医療と在宅看取りを信奉し、末期の父親の願いも受入れ病院を退院し在宅医療を選択する。そこで繰り広げられた在宅医療の予想外の現実に直面し失望する。その経過のやりとりを通じて日本での在宅医療の現状の問題点が浮かび上がる。
 最大の問題点は在宅医の技術水準のバラツキだろう。在宅医という特別な資格はない。それだけに多様な病態に対する治療や処方はそれぞれの在宅医の技量や知識や経験値に委ねられる他はない。わけても看取りの実績数の違いや医療用麻薬の知識の違いは大きい。また病院から退院時の主治医と在宅医との連携不足という問題もあるようだ。
 そうした現状を考えれば、在宅医療や在宅看取りをいたずらに美化することの懸念もある。身近に信頼できる在宅医がいるかどうかが選択の第一歩である。病院と在宅の二者択一でなくそれぞれを状況に応じて上手に使い分けることが必要なのだろう。
 とはいえ著者のベテラン在宅医としての立場からのありのままの在宅医療の率直な実態報告は貴重である。