BSプレミアム・バリバラドラマ 37セカンズ2020年02月01日

 NHKBSプレミアムのバリバラドラマ『37セカンズ』の再放送を観た。事前の予備知識は全くなく、NHKEテレのバリバラのドラマバージョンくらいの軽い気持ちで観始めた。ところが展開されたドラマはシリアスで重いものだった。
 何よりも主人公は脳性麻痺で車椅子生活者の実在の若い女性・佳山明(メイ)である。オーディションで選ばれたズブの素人の彼女が人生で初めての女優に挑んだ作品だった。本格的なドラマのヒロインを体当たりで演じている。障害者にとっての「性」というシビアなテーマに真正面からぶつかっている。母親との葛藤場面を本職の女優相手に臆することなくバトルを演じきっている。2019年ベルリン映画祭パノラマ部門で観客賞と国際アートシネマ連盟賞をダブル受賞した国際的にも評価の高い作品である。
 母親の過剰な介護から自立をめざして、新たな世界に踏み出していくヒロイン夢馬(ユマ)の姿は、危なげで痛々しい。それでも自分が障害者であることを前面に据えながら、介護とは無縁の健常者でも距離を置きたくなるような夜の世界を独りでさまよう。
 タイトルの「37セカンズ」は、生まれた時に37秒間呼吸が出来なかったことで身体に障害を抱えてしまったユマの人生の原点を象徴している。
 映画祭の授賞式で、メディアから「出演して難しかったこと、優しかったこと」を聞かれた佳山明が答える。「優しかったことは障害者のリアリティ(の表現)です」。当意即妙の何という見事なリアクションだろう。障害者のありのままの立ち位置こそが自分の強みであることをさりげなく告げている。その振舞いとその場の共感こそがバリアフリーなのだろう。