北方健三著「楠木正成上・下」2020年11月09日

 3カ月ぶりの書評である。北方健三著「楠木正成上・下」を再読した。「悪党の裔」に続く『北方太平記』の2作目の再読だった。そして著者の南北朝シリーズの集大成の歴史小説である。
 楠木正成という著名な歴史上の人物のシンボリックな英雄イメージでなく等身大のリアリティのある人物として描かれている。足利尊氏、赤松円心、後醍醐帝、大塔宮護良等の登場人物も独自の解釈でリアリティのある人物像で描かれる。そうした新たな歴史解釈と人物像は魅力的で読者を一気に引き込ませる。
 個人的には先に読んだ「悪党の裔」により魅力を感じた。悪党という時代を背負った存在を独特のそれでいて説得力のある解釈で描いた作品だった。