NHKスペシャル「認知症の第一人者が認知症になった」2020年12月30日

 NHKスペシャルの再放送「認知症の第一人者が認知症になった」を観た。

 長谷川和夫医師(90歳)は、認知症のデイサービスを提唱し、「長谷川式」と呼ばれる早期診断の検査指標を開発した認知症医療の第一人者である。半世紀にわたって認知症治療に向き合ってきた長谷川さんが2年前に自らの認知症を公表した。「自身が認知症になって初めて君の研究は完成する」。このかつての先輩医師の言葉を噛み締めた末の公表だったようだ。NHKが1年にわたって長谷川さんとその家族の姿を記録し続けてきたドキュメンタリーである。

 認知症の第一人者の赤裸々な想いと葛藤がひしひしと伝わって胸を打つ。認知症治療の権威であるが故の当事者となって思い知らされる自分の振る舞いとの葛藤は痛々しい。

 自分が提唱し実践したはずの認知症デイサービスで、どうしようもない「孤独」を感じてしまう。一刻も早く自宅に戻り、自分の「戦場」である書斎に浸りたいと願ってしまう。そんな本音を娘さんに漏らす。家族のためにもデイサービスが大切と言ってきた人である。奥さんの負担が軽くなることを承知しながらデイサービスを利用したくないという。長い沈黙の後、「僕は死んでいくとき、どんな気持ちで死ぬのかな」と呟く。なぜそんなことを訊くのかという娘さんに答える。「周りはホッとするよね。きっと。俺はみんなに負担をかけているということは自覚しているつもり」。

 認知症の大家が吐く生のセリフに共感した。それこそがあるがままの認知症の姿なのだろう。

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