北方健三著「武王の門 上・下」2021年01月04日

 北方健三著「武王の門 上・下」を再読した。「悪党の裔」「楠木正成上・下」を再読してあらためて北方太平記の魅力に惹かれている。
 本著は北方太平記の処女作である。多くのハードボイルドな推理小説を手がけていた作者が、南北朝という一般の読者には比較的馴染みの少ない時代を舞台にして書き上げた意欲的な歴史小説である。新しい素材とテーマをハードボイルド風にいきいきとリアリティ溢れるタッチで描かれている。
 物語は征西将軍宮(懐良親王)と菊池武光の二人を主人公として展開する。作者の多くの作品の底流をなす「男の生きざま、死にさま」がこの作品でも色濃く投影されている。
 日本史の多くの時代が朝廷と武家の緊張と葛藤で展開されている。その殆どが権威と武力という相入れないファクターのもたらす対立と抗争の歴史だった。
 本作品はその二つのファクターが補完し合って新たな政権を構想するという異例の物語のように思えた。懐良という後醍醐帝の皇子である権威と武光という稀代の武将の武力が支え合って九州を舞台に新たな世界の実現を夢見る。相反するファクターを結びつけるものは「夢」であり、そのための「志」である。
 北方太平記の処女作が新鮮でワクワクする感動をもたらした。