塩野七生著「ローマ人の物語9」2023年05月17日

「ローマ人の物語・第9巻」を再読した。6巻からなる古代ローマの英雄”ユリウス・カエサル物語”ともいえるシリーズの第2巻である。カエサルの幼年期から37歳までの青年期後期までの長い雌伏の時期を描いた前巻から一転して「陽の当たる道」を歩き始めた40代が描かれる。
 カエサルが仕組んだ”元老院派”に対抗するポンペイウス、クラッススによる”三頭政治”の確立とそれを背景とした41歳の執政官就任の顛末は彼の優れた政治性を窺わせる。
 執政官退任後のポストである属州総督としてガリアに赴任する。ガリアを舞台とした5年に渡るガリア戦役でカエサルは軍事的才能をいかんなく発揮する。
 それにしてもこの巻で展開される5年に及ぶガリア戦役には現在のヨーロッパの主要大国の2300年前の姿が描かれる。フランス、ドイツ、イギリス等が未開の野蛮族としてローマと矛を交え、ことごとく退けられる。その輝かしい古代ローマの末裔・イタリアは今やヨーロッパの二流国になり下がっていることの対比を思わずにはおれない。
 一方でカエサルはガリア戦役を自ら筆を執って「ガリア戦記」を著述する。この著述は塩野七生をして他のどの資料にもまして優れた基本資料と言わしめる文章力にも秀でた著作のようだ。
 政治性、軍事的才能、文才と、万能の英雄カエサルの真骨頂である。