介護医療院2019年05月07日

 長尾和宏医師のブログ「Dr.和の町医者日記」でもうひとつの気になるキーワードに「介護医療院」があった。
 昨年4月に介護保険法等の改正法施行により法定化された新たな施設である。超高齢社会、多死社会という環境変化を受けて医療・介護の変化するニーズに対応するために創設された。介護医療院は要介護高齢者の長期療養・生活施設として設計され、要介護者に対し、「長期療養のための医療」と「日常生活上の世話(介護)」を一体的に提供する。医療保険と介護保険の制度上の壁に阻まれて医療と介護の連携が進まない。そんな中での医療と介護を一体的に提供する施設としての期待は大きい。

人生会議2019年05月06日

 福祉ネット北六甲の主要テーマに「住民主体の地域包括ケア」に向けた環境整備がある。そのためには在宅介護等に関わる最新情報や行政の動向把握が欠かせない。そうした情報収集の貴重なソースが尼崎の町医者・長尾和宏医師のブログ「Dr.和の町医者日記」である。日々欠かさず閲覧している。最近の氏のブログを読んで気になるキーワード「人生会議」があった。
 「人生会議」とはアドヴァンス・ケア・プランニング(ACP)
についての厚労省が公募・選定した愛称である。人生の最終段階における医療・ケアの在り方についてあらかじめ本人や家族や医療者がじゅうぶんに話し合っておく自発的なプロセスがACPである。
 ACPの人生会議という愛称は違和感がないではない。介護という分野で「人生」という言葉が関わるとすれば、介護者の本人への接し方の根本にある姿勢の中にあるように思う。機械的、画一的な介護でなくひとりひとりの思いに寄り添った介護が問われている。本人の歩んできた人生というドラマを受け止め共感しながら寄り添う介護である。
 ただ終末期医療の在り方を話し合う場をACPという記号のような呼び方でなく人生会議という呼び方の方がベターであるとは思う。

福祉ネットのネットワーク機能2019年04月22日

 地区のスポーツクラブ21の総会に来賓出席した。体育館や運動場等の会場使用で小学校との関係が深い組織である。来賓席で同席した校長と教頭のお二人から感謝の言葉をかけられた。
 4月初めに教育連携協議会等でお付合いのある校長から次のような依頼があった。新学期を迎えて特別支援学級で受け入れる障害児の人数が増え授業を補助してもらえる補助員を募っている。学校関係のルートでの募集だけでは人材確保が難しい。社協ボランティア等に声掛けしてもらえないか。
 早速ボランティアの皆さんに情報を流して打診したが期待した反応はない。パートタイマー並みの有償ボランティアで午前中の授業という比較的出やすい時間帯であるが、障がい児の支援という特殊性に不安があるようだ。思いついて福祉ネットのアドバイザーでもある障がい者家族会代表に相談がてらに声を掛けた。家族会のメンバーに声を掛けてみるとの前向きな反応だった。その結果4月中旬には家族会の関係者の補助員採用が確定し、授業補助が開始された。校長、教頭のお礼の言葉は、何とか新学期早々に難しかった補助員を採用でき特別支援学級の授業が円滑に運営できるようになったことの安堵の気持の表れだろう。
 私の家族会代表へのお礼メールに返されたメールにあらためて気づかされたことがある。「特別支援学級の子どもたちのために尽力いただきありがとうございます」という言葉に込められた想いが伝わった。障がい児の母親である彼女にとっては特別支援学級の運営は他人事ではない。我が事という受止めなのだろう。家族会のメンバーにとっても同様だろう。補助員を引受けてもらった方も成長した障がい児の母親のように思える。少しゆとりができて少しでも自分の経験を地域に役立てたいという想いだろう。
 返信メール中の「福祉ネットがあればこその成果だと思います」という言葉にも大いに励まされた。福祉ネットのもつネットワーク機能があらためて地域活動に活かされた。

福祉フォーラム「ここが知りたい認知症」2018年12月18日

 第4回福祉フォーラムは118人もの受講者で大盛況だった。事前の案内チラシには「ここが知りたい認知症」というタイトルを大きく訴え、~予防と治療の最前線と地域支援~のサブタイトルで事前に講師とも調整した講演内容を伝えた。
 講師のものわすれクリニック院長の松本一生氏は、認知症専門医として診療する傍ら、自らも認知症の義母とパーキンソン病の妻の介護を経験した介護者として積極的に認知症理解のための講演、番組出演、執筆活動をされている。
 90分の講演では、そうした知識と経験がいかんなく発揮され、受講者に多くの共感をもたらした。以下、印象的だった内容を記しておきたい。
 認知症を当事者から告げられた時「あなたなら大丈夫!」とは言わない。それは受止めてもらいたいという当事者の想いを拒むことになりかねない。一緒に考えましょうと共感し寄り添う姿勢が大切。
 認知症は「なったらおしまい」ではなく、「なってからが勝負」
 妻を介護するご主人たちが大変!「ちょい呑みオヤジ会」ならぬ「妻を介護するオヤジ会」が必要では。
 種類ごとに異なる認知症の症状の理解が大切。アルツハイマーはこれまでと異なる人柄に。血管性認知症は易怒性やまだら症状。レビー小体型認知症はパーキンソン症状と幻視。前頭側頭型認知症は非社会性や無頓着。
 糖尿病、脂質異常、血圧乱高下の生活習慣病対策が認知症予防に。食生活は粗食を心がける。ひきこもりの脱出と人との対話。生きがいと使命感。
 介護家族の善意の加害者のケアこそが大切。地域の悪意が介護家族の不幸をもたらす。介護を終えた遺族の65%が自分の至らなさを後悔している。介護家族への声掛けや励まし等の地域の支えを。
 介護生活が長くなるほど誤嚥性肺炎の発症率が高くなる(15年で89%)。終末期医療の口腔ケアの大切さ。
 
 92枚もの受講者アンケートを回収した。85名(92%)の方が講演内容の評価に「良かった」を選択されていた。

大盛況だった福祉フォーラム2018年12月16日

 第4回福祉フォーラムを「ここが知りたい認知症」をテーマに開催した。認知症の「予防と治療の最前線と地域支援」をサブタイトルに著名な認知症専門医である松本一生さんに90分たっぷりお話し頂いた。講演についてのコメントは別途記事にしたいが、ひとまず開催状況の速報を更新しておきたい。
 山口ホールの会場を埋め尽くす118名の受講者だった。事前準備した席数はテーブル席108、予備の椅子席18の計126席だったからほぼ満席である。設立総会とセットの第1回が120名、一昨年が95名、総会と分離した昨年が88名だった。大幅な増加と言える。設立総会では構成組織の代議員が80名を占め一般参加は40名だった。今回は代議員等の関係者が41名で一般参加が71名と構成比は逆転した。
 地域の一般参加の多さの要因は次の点だと思われた。ひとつは講師の松本先生のテレビ番組出演や介護業界での知る人ぞ知る知名度が大きい。今ひとつは身近に迫ってきた認知症への関心の深さである。そういう意味で今回のテーマ設定と講師選択が奏功したといえる。それは講演後の92枚もの受講者アンケート回収(回収率78%)にも表れていた。

人生の入口、出口の苛酷な環境2018年07月02日

 福祉ネットの事業目的に「子育て支援」を追加して以降、子育て問題に向き合う機会が否応なく増えてきた。子育て問題を理解するにつれ、高齢者問題のテーマに驚くほど類似していることに気づかされた。
 何よりも双方の問題に共通する施設や人材の絶対的な不足がある。高齢者の介護施設と介護者、乳幼児の保育所と保育士それぞれに絶対数の不足が著しい。その背景には、介護士と保育士の労働条件の低さがあることは明らかである。その結果、多くの待機老人と待機児童を生みだしている。
 施設やマンパワーの絶対数不足はサービスの質の低下を招き、時に受給者である高齢者と乳幼児に「虐待」という苛酷な環境を強いている懸念がある。家庭内での「老人虐待」と「児童虐待」は格差社会と貧困の深刻化の裏返しという共通項がある。
 経済界の意向を重視する経済至上主義の長期政権が続いている。福祉は置き去りにされ、市場原理の規制緩和が格差と貧困を増幅させている。そのしわ寄せを真っ先に受けるのが高齢者や乳幼児という社会的弱者なのだろう。日本は人生の入口と出口でかくも苛酷な環境を強いられる社会に成り下がった。

有馬病院長インタビュー2018年06月28日

 福祉ネット広報紙の第7号の編集に着手した。前号に引き続いて今号でも福祉ネット・オブザーバーの有馬病院の病院長インタビューを掲載することになった。
 その取材のため事前にアポを入れて有馬病院を訪問した。明るい開放的な病院受付で来意を告げると担当者に会議室に案内された。穏やかな雰囲気の病院長とのインタビューが始まった。事前に届けておいたインタビューポイントに沿って取材を進める。
 1時間ほどの取材を終えてこの病院の過去と現在の沿革を想った。60年前に精神疾患専門病院としてこの地に開設された病院である。地区社協の20年誌に掲載された写真には、開発が着手されたばかりの住宅街の造成地の手前に有馬病院の白亜の建物が写されている。以来30数年が経過した。既存の精神病院と後からやってきた新興住宅街の住民との間には複雑な関わりが介在しただろうことは想像に難くない。7年前には本館の全面改装とリワーク病棟の新設が完了し外観の印象も一新された。
 インタビューでは病院の地域医療との関わり方をお聞きした。山口健康福祉センターの相談活動での医師派遣、通院患者の訪問看護、地域の研修会での講師派遣や病院での研修受入れなどが紹介された。秋の収穫祭は患者や家族だけでなく地域住民にも開かれたイベントとして催されている。
 何よりもうつ病や認知症といった精神疾患がますます地域住民にも身近で切実な問題になってきた。それだけにこの病院と地域住民との結びつきは年々密になっているようだ。建物や内装の明るくてオープンなイメージをオーバーラップさせながらそんな印象を強く受けた。

漂流キッズ2018年06月24日

 今期から福祉ネットの事業目的に「子育て支援」を追加した。福祉ネット総会直後の第1回役員会で初めて「子育て支援」についてフリートーキングを交わした。今まで気に留めていなかった「子育て問題」の深刻さを思い知らされた。
 役員会に初参加のPTA派遣役員から、保護者の共働き世帯やシングルマザーの多さが報告され、放課後の子どもたちの居場所のなさが保護者の深刻な悩み事であることを知った。学童保育(育成センター)は3年生までしかなく4年生以降の公的な受入れ先がない。やむなく様々な塾や習い事に通わせることになる。どこにどんな塾や習い事の場があるのかという情報収集が切実な問題だという。
 ある学習塾の運営責任者である知人からも塾に通う生徒たちの実情を聞かされた。所定の授業とは別に塾の自習室で過ごす子どもたちが多いという。親たちの帰宅時間まで自習したり塾仲間たちと時間を潰すためだ。
 先日の市社協評議員会でも受託している育成センター事業の運営の厳しさが報告された。利用希望者の増加が著しく市は育成センターの増改築でクラス増と定員増をはかろうとしている。ところが受託事業者側では待遇面の低さもあって指導員の確保が追いつかない。慢性的な人不足状態で定員増に応じがたい現状である。
 今後も放課後の子どもたちの居場所問題の深刻化が加速しそうだ。子どもたちが放課後の居場所を求めてさまよっているかのように見える。「漂流老人」のイメージがオーバーラップしてふと『漂流キッズ』という言葉が浮かんだ。子どもたちの環境のこんな苛酷さが心身の成長に影響を及ぼさない筈はない。

福祉ネット第4回総会&交流会2018年06月11日

 福祉ネットの4回目の総会を終えた。設立以来丸3年を経て「住民主体の地域包括ケアシステム」という新たな事業モデルが曲りなりにも定着してきた感がある。
 定刻の1時半に会場のコミュニティセンターには構成組織の執行部メンバーである代議員29名、オブザーバー、アドバイザー12名、ご来賓8名の計49名の方の出席があった。
 主催者代表の開会挨拶は住宅街の自治会長に就任したばかりの若い子育て母さんにお願いした。子育ての苦労や悩みと地域福祉との関わりを織り交ぜた素晴らしいスピーチだった。
 事務局長である私から事業報告、事業計画、会則改訂、役員改選を提案した。事業計画の今回の大きな柱は事業目的に「子育て支援」を追加した点だ。そのため構成組織に新たに地元小学校PTAに参加して頂いた。議案審議では、地区社協に全面的に依存する会計の在り方や事業計画と構成組織の関わり方等について質問があった。今期の役員会で検討する旨の答弁をした。
 予定より早く総会を終え、参加者交流会に移った。10分程度のコーヒーブレイクの後、交流会参加の来賓、オブザーバー、アドバイザーの16名の皆さんに自己紹介を兼ねたコメントを頂いた。それぞれに個性的で意欲的な取組みが紹介され、参加者の各組織についての認識を新たにした。その後、テーブルを自由に移動する形で30分ばかり交流会となった。交流会の締めの挨拶を自治会長を退任したばかりの前議長にお願いした。地域での孤立化防止をテーマにした1年間の福祉ネット議長の経験がにじむ良い挨拶だった。
 予定より早い15時半頃に4回目の総会&交流会を終えた。

地元病院の院長インタビュー2017年12月07日

 年二回発行の広報紙「福祉ネット北六甲」の第6号を来年1月下旬に発行予定である。役員会で地元の基幹病院の院長インタビューを掲載することを確認した。その病院の医療法人は福祉ネットのオブザーバーでもある。事前に面識のある理事長に調整してもらい、院長室で取材に応じて頂いた。
 1時間に及ぶインタビューで多くの情報と新たな見方が得られた。何しろ医師でもある病院長という立場の方との突っ込んだ懇談は初めてである。事前にインタビューポイントを整理して、福祉ネット広報紙のバックナンバー、直近の総会議案書、社協分区20年誌等の参考資料も添えてお渡ししておいた。
 50代後半の穏やかで誠実なお人柄のドクターだった。事前資料をよく読んでおられたようで、インタビューポイントに沿って的確に答えて頂いた。
 インタビューを通して最も知りたかったのは、病院としての在宅医療との関わり方だった。北部西宮という比較的限定されたエリアでの病院勤務医や開業医等の人的なつながりは良好とのこと。病院と診療所との機能分担もうまくいっているようだ。ただ病院と在宅医療との連携は必ずしも円滑とはいかない。在宅患者の家族の想いや事情、介護認定上の制約等が絡んだ難しさも生じる。
 福祉ネットについての期待や評価も頂いた。 「福祉ネットという網は、人体に例えると様々な臓器をつなぐ神経や血管ではないか。医療機関や介護施設や民生委員等の様々な社会資源を網で繋いでそれを太くきめ細かくすることで連携をスピーディに緊密する役割だと思う。またご近所さん、ボランティアさん、ちょい呑みオヤジ会員など末梢の人対人を繋ぐ毛細血管でもある。そこから様々な情報を吸い上げ各臓器に伝えている。その意味で人体全体を覆う大血管と毛細血管の機能が福祉ネットではないか」。ドクターならではの視点に共感した。