藤沢周平著「逆軍の旗」2011年08月12日

 藤沢周平の短編集「逆軍の旗」を読んだ。表題作のほかに「上意改まる」「二人の失踪人」「幻にあらず」の三編がおさめられている。いずれも小説ジャンルとしては歴史小説に属するのだろうが、主人公が明智光秀の「逆軍の旗」と上杉治憲(鷹山)の「幻にあらず」に対して、他の二編は古文書に題材を得て無名の主人公を扱った物語である。
 個人的には「逆軍の旗」が面白かった。作者があとがきで「戦国武将でもっとも興味を惹かれる」と述べた明智光秀の最後の十日間を描いたものだ。心理描写では圧倒的に優れた作家である藤沢周平が取上げるとすれば、光秀の謀反を決断するに至る心理をおいてほかにはない。文庫本60頁余りの短編で見事にそれが描かれている。
 「幻にあらず」も力作だった。主人公は厳密には上杉治憲ではない。治憲の治世を補佐した執政・竹俣当綱である。若くして新藩主となった治憲の藩政改革を支え断行し財政立て直しを実らせた実力者である。名君・上杉鷹山を名君たらしめた背景と、それを支えた実務派の手腕とと苦悩を鮮やかに描いている。