遠藤周作著「王国への道―山田長政―」2009年12月29日

 25年前に発行された遠藤周作著「王国への道―山田長政―」を再読した。内容の記憶はほとんどない。むしろ中学時代に読んだ挿絵のいっぱい載った少年本の山田長政のイメージが強い。今にして思えば胡散臭さを感じさせるシャムの王様になったという英雄のイメージである。そして書棚で表題の文庫本を見つけた時、長政が本当にシャムの王様になったのかを知りたいと思い、再読を思い立った。
 読み終えて、期待は半ば満たされ半ば消化不良に終わった。解説によればこの作品は歴史上の人物の姿をかりて作者の想像力に多くの部分を委ねたものだという。その意味では歴史小説から少し距離を置いた文学作品といえる。それでも長政という人物が、江戸時代初期にシャム(タイ)に渡りアユタヤ王朝の首都アユタヤの日本人町で傭兵隊長になったという史実が興味深く語られている。更に晩年には王朝の一州のリゴールの王に封ぜられるというくだりが「長政のシャムの王様説」に近くなる。
 作品の評価はタイトル「王国への道」に暗示されている。「地上の王国を築こうとする長政」と「天上の王国をめざすペドロ岐部」という対象的な二人を通じて提示されるテーマである。同時に徳川幕府成立直後の閉塞状況を迎えつつあった当時の時代状況に対する二人の共通した生き方への共感である。自身の生き方のために狭い日本を飛び出しまっしぐらに突き進む姿である。二人の波瀾万丈をスリリングに描きながらテーマを忠実に追い続ける。そして二人の哀しい結末をもって物語が終る。