10年後の「8050問題?」2022年01月29日

 27日に発生し翌日に決着した”埼玉立てこもり事件”は、衝撃的で悲惨な結末を迎えた。90代の母親を介護していた60代の男性が、母親の死の直後に来訪した母親の主治医である訪問医を人質にして立て籠もった末に散弾銃で射殺したという事件である。
 何よりも事件の舞台が在宅医療の現場だったことが私に衝撃をもたらした。在宅医療は超高齢社会を迎えた我が国で、なくてはならないインフラである。24時間対応の訪問診療を設備の不十分な在宅環境でこなすという過酷な医療現場である。治療方針を巡って患者やその家族とのトラブルも起こりうる。その最も悲惨で劇的な決着が今回の事件だった。
 犠牲となった訪問医の鈴木医師は訪問診療に高い志をもって取り組んでいた医師だったようだ。その貴重な人材が理不尽な形で失われたことの地域社会の損失ははかり知れない。在宅医療の関係者や在宅医療を志す人たちに与えるマイナス効果も心配だ。
 容疑者は定職を持たず母親の介護に専念していたようだ。母親の年金等が経済的な生活基盤だった可能性も推定される。ひきこもりではないものの50代の子どもが80代の親の年金等に依存して生活する「8050問題」を連想した。ひょとしたら今回の事件は、「10年後の8050問題」を象徴しているのではないか?
 8050問題の今を語られることは多いが、その10年後についての議論は少ない。80代の親に依存する50代の子どもの10年後である。介護生活を送る親の介護を子どもは否応なく担うしかない。引き籠りがちで社会とのつながりの稀薄だった子どもにどんな介護が可能なのだろう。
 想像するだけでも厳しい9060問題が迫られる。