ジェフリー・アーチャ-「めざせ ダウニング街10番地」2022年08月01日

 ジェフリー・アーチャ-作品の再読3巻目は「めざせ ダウニング街10番地」だった。1964年のイギリス下院選挙で当選した3人の新人議員が首相の椅子を目指してしのぎをけずる物語である。それぞれに貴族、中流階層、労働者出身の3人が保守党、労働党に分かれての闘いは波乱に満ちて読み応えのある展開で読者を飽きさせない。
 著者自身が下院議員の経験者であり、それだけに実際の政治の舞台の経験者として実在の事件や人物を折り込んでリアリティのある物語にしあげている。
 物語の興味は結局3人の内、誰が首相の座を射止めるのかという一点に絞られる。この点について作者は極めて巧妙に最後まで隠し通している。稀代のストーリーテラーの真骨頂である。そして物語の最後の一行になって初めて結論が明かされる。その驚くべき筋立てに舌を巻くほかない。
 時あたかもイギリスでは与党保守党の党首選真っ只中である。スーナク前財務相とトラス外相の二人が決選投票に臨んでいる。この作品を通して得られたイギリスの首相選びの仕組みについての知識が、現在の保守党の党首選挙の動向を一層身近なものにしている。