塩野七生著「ローマ人の物語16」2024年01月05日

 塩野七生著「ローマ人の物語16」を再読した。この巻は初代ローマ皇帝・アウグストゥスの43年に及ぶ統治の後期(48歳~77歳)の足跡とその死を辿ったものだ。
 アウグストゥスはカエサルによって早くから後継者に指名されカエサルの構想であった帝政ローマを実現し初代皇帝となった。それはローマ世界にパクス・ロマーナと呼ばれる平和と繁栄の礎をもたらした。
 カエサルにも匹敵する古代ローマの傑出した人物・アウグストゥスの晩年の後継者問題を巡る苦悩と血のこだわりの顛末がこの巻のテーマのように思える。カエサルにとってアウグストゥスは「姪の息子という遠い親戚」であり、血統へのこだわりは希薄である。カエサルは人物本位の後継者指名とそのための万全の環境を準備している。一方、アウグストゥスは余りにも強い血統へのこだわりが後継者問題を混乱させ、ひいては国家運営に障害をもたらしている。
 後継者問題というアウグストゥスの晩年の誤謬も、期待した孫たちの相次ぐ死亡で辛うじてカバーされることになる。21歳年下の配偶者の連れ子であるティベリュウスは当時のローマ国家で最も期待された望ましい人材だった。このティベリュウスへの後継者指名が、結果的にその後の帝政ローマの平和と繁栄をもたらすものとなった。