塩野七生著「ローマ人の物語24」2024年10月14日

 塩野七生著「ローマ人の物語24」を再読した。この巻はサブタイトルに「賢帝の世紀」と題され、全盛期のローマをもたらした三皇帝の三巻の物語の上巻である。
 この巻は、初めての属州出身の皇帝となったトライアヌスの物語である。「至高の皇帝」と呼ばれたトライアヌスの優れたリーダーシップと帝国の最大版図の実現等の偉大な業績が余すところなく描かれている。
 トライアヌスの最大の業績は二次に及ぶダキア戦役に勝利しアラビアとダキアを併合して帝国の最大判図を成し遂げたことだ。内政でも社会基盤の整備、福祉の拡充等大事業を相次いで成し遂げた。これだけ業績は帝国への道を拓いたカエサル、帝国を造り上げたアウグストゥスに次ぐものと思える。
 ただこの偉大なリーダーのプライベートに関する記述はわずか4頁余りと驚くほど少ない。著者も「書くことが何もないから」と弁解の言葉を吐露している。トライアヌス本人だけでなく妻をはじめ肉親たちは見事に地味で高潔な人柄だった。それだけに皇帝を巡る様々なトラブルから無縁で物語が生まれる余地がなかったということだろう。
 至高の皇帝の物語はあっけない形で終焉を迎える。東方の強国パルティア王国の内紛に端を発したパルティア戦役に遠征中の皇帝は病に襲われる。ローマへの帰途の船中で64歳で死を迎える。プライベートでのドラマの少なかった皇帝は自身の死さえもドラマ性を帯びていなかった。唯一の救いは死に直前に数少ない縁者だったハドリアヌスを後継指名していたことだろう。