今村欣史著「完本・コーヒーカップの耳」2020年04月14日

 著者の今村欣史さんから贈呈して頂いた「完本・コーヒーカップの耳」を読んだ。2001年の初本「コーヒーカップの耳」発行後、19年ぶりの続編である。前作の書評もブログで書かせてもらった。http://nishinomiya.areablog.jp/blog/1000061331/p10838850c.html
 前作に納められた35編の詩は常連さんたちのカウンター越しの会話から得られた人間模様を掬い取り散文詩風に綴られたものである。短い内容で簡潔にまとめられ語り手の氏名の記載もない。多分に詩集の体裁にこだわった印象が強い。
 新作には140編ほどの長短さまざまなエッセイが納められている。それらが記述された内容の時代に応じて戦前から平成まで時代順に掲載されている。これに15人の登場人物の作者による人物評が添えられている。
 新作では詩集というこだわりを捨てたエッセイ集(サブタイトルに「人情話」の文字がある)としての出版である。それは個性豊かで含蓄のあるそれだけに忘れがたい常連さんたちのあるがままの生き方をいきいきと伝えたいという想いの故と思えた。だからこそ各エッセイの表題の下には語り手の姓名が記載され、必要に応じて人物評が添えられている。
 読了してこの作品は「庶民の時代の証言集」とも言うべきものではないかと思った。喫茶・輪のマスターとして32年間に渡って交わりあった多くの常連さんたちの時代を映した数々の珠玉の物語である。それは詩人の視線と感性を持った店主だからこそ可能だった営みの筈である。登場人物たちのさりげない「語り」をいきいきと鮮やかに表現できる力量は並々ならぬものがある。それがごくありふれた市井の人々の時代を感じさせる本質のような風景を伝えている。

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