塩野七生著「ローマ人の物語33」2025年02月04日

 塩野七生著「ローマ人の物語33」を再読した。この巻はサブタイトルに「迷走する帝国」と題された古代ローマの”危機の三世紀”を扱った上中下三巻の中巻である。
  前巻は、皇帝カラカラに始まりアレクサンドルに至る24年の4人の皇帝たちが全員謀殺という悲惨な結末で帝位を終えた3世紀前半の物語だった。
 皇帝アレクサンドルがガリア戦役の前線で兵士たちに忙殺された後を受けて帝位を継いだのは前線で新兵訓練の指導する62歳のマクシミヌス将軍だった。 ドナウ河下流のトラキアの羊飼い出身の新皇帝は、属州総督の経験も元老院議員の議席もない。元老院に帝位の正当性を示すためゲルマン民族との闘いに明け暮れ、輝かしい戦果を挙げる。
 マクシミヌスの戦果を苦々しく受け止めていた元老院は、80歳の名門元老院議員である北アフリカ属州総督ゴルディアヌスを皇帝に推戴し事態打開を託す。ところがゴルディアヌスは北アフリカ唯一の軍団基地を守る第3アウグスタ軍団の造反によってあっけなく討死する。狼狽した元老院は新たに二人の元老院議員を皇帝を任命し、加えてゴルディアヌスの13歳の孫を次期皇帝として擁立する。
 ローマに進軍した皇帝マクシミヌスは本国イタリアに入った地点の都市で住民の抵抗にあう。その攻防戦中に元老院に妻子を人質に取られているという妄想に囚われた兵士たちに殺害される。ところが元老院が任命した二人の皇帝はほどなく仲たがいし混乱をさらけ出す。これに嫌気をさしたマクシミニスの進軍を支えた将兵たちは二人の皇帝を抹殺する。
 元老院は最後に残ったゴルディアヌスの孫を新皇帝として支えることでまとまる。ゴルディアヌス三世の治世が6年にも及んだのは優れた実務家ティメジテウスの支えの賜物だった。
 治世3年の頃に東方のササン朝ペルシャで創始者の次子シャプール一世がクーデターで実権を掌握する。新王は権力の正当性を確保するためローマ帝国に進軍する。これに対しローマ軍は16歳の皇帝と近衛軍団長官ティメジテウスに率いられて前線のアンティオキア入りを果たす。ローマ軍はペルシャ軍を蹴散らしペルシャの首都を窺うほどの攻勢の最中にティメジテウスの死という想定外の不幸に襲われる。ティメジテウスの後任にとして昇格した次席のフィリップスは皇帝の補佐役を果たさないばかりか冬営中の欠乏感に不満を募らせた兵士による皇帝謀殺を傍観し、 ゴルディアヌス3世は19歳の命を絶たれる。
 兵士たちの推挙の形を整えたフィリップスは直ちに元老院に皇帝就任を求め元老院は追認する。ペルシャ軍と和解したフィリップスはローマに帰還するが、ゴート族による帝国内への侵攻を受け、首都長官デキウスをドナウ河前線に派遣する。ゴート族の侵入を食い止めたデキウスは軍団から皇帝に推挙される。デキウス討伐に向かったフィリップスはデキウス軍と対峙する中で自軍の兵士たちに見捨てられ自死する。
 デキウスは皇帝に即位するが、ゴート族が大挙して属州トラキアに侵入する。これを迎え撃ったデキウスは蛮族との戦闘中に戦死する。戦闘に参加していた属州総督トレポニアヌスが将兵たちに皇帝に推挙される。トレポニアヌスはゴート族の要求を全て受入れて講和を結びローマに向かう。不本意な講和に反発した将兵たちを率いた属州総督エミリアヌスが講和を反故にしてゴート族支配地に攻め入り勝利する。エミリアヌスとゲルマニア防壁軍団司令官バレリアヌス皇帝が即位を宣言する。鼎立する三者の勝利者バレリアヌスが最終的に皇帝に即位する。
 皇帝バレリアヌスはローマ軍の指揮官の再編成等の軍団強化を実施するとともに帝国の困難を傍観するキリスト教徒の弾圧にも着手する。他方でササン朝ペルシャを率いたシャプール一世が大軍を編成し帝国領地を侵略する。これを迎え撃ったバレリアヌスはシャプールの奸計に嵌り捕らえられる。共同皇帝だった息子のガリエヌスが後を継ぐ。
 本巻は紀元235年から260年のわずか25年のローマ帝国の動向を記しているが、この間に即位した皇帝は9人に及ぶ。その内5人が謀殺され、2人が戦死し、2人が自死している。この現実こそが「迷走する帝国」を如実に物語っている。