塩野七生著「ローマ人の物語43巻 ― 2025年05月07日

塩野七生の渾身の大作である「ローマ人の物語」の文庫版全43巻を読み終えた。
最終巻の見開きにも次のようなカバー掲載の金貨の変遷についての印象的な記述があった。「時代が過ぎるにつれて鋳造技術のほうも発達する、というものではないことがわかってもらえるだろう。(略)歴史には進化する時代があれば退歩する時代もある。そのすべてに交き合う覚悟がなければ、歴史を味わうことにはならないのではないか」
最終巻は、「帝国以後」と題された47676年の西ローマ帝国滅亡以降のローマ世界の終焉の物語である。それは大きく分ければ、イタリア半島に侵攻した蛮族による支配で実現された「平和」(パクス・バルバリカ)と、その後の東ローマ帝国皇帝・ユスティニアヌスによるイタリア侵攻がイタリアと首都ローマの息の根を止めたという歴史の余りにも皮肉な現実の物語でもあった。
西ローマ帝国の最後の皇帝を退位させ、後継皇帝を立てなかったことによって結果的に帝国の幕引きをしたのが、西ゴート族の族長オドアケルだった。イタリア王となったオドアケルは、少数の勝者の蛮族と多数の敗者ローマ人との共生という巧みな統治を実行する。それは元老院階級とカトリック派キリスト教会という既存の統治階級の温存という形で具体化される。その上で軍事は蛮族が、行政や経済等はローマ人が担当するという棲み分けが行われた。この「パクス・バルバリカ」の第一走者オドアケルによるイタリア支配は17年に及ぶ。
オドアケルの支配を終わらせたのも蛮族・東ゴート族の若き族長テオドリックだった。オドアケルとの闘いに勝利したテオドリックは、オドアケルの政策をそっくりそのまま継承することで493年から33年に渡って東ゴート王国の王としてイタリア半島を支配する。西ローマ帝国滅亡直後から始まった「パクス・バルバリカ」は半世紀にわたって続き、イタリア半島はあらゆる面で生気を取り戻した。農業生産が向上し流通も回復し、減少一方だった人口までも上向くようになった。「平和(パクス)」が、人間社会にとっての窮極のインフラであることの証しだった。
「パクス・バルバリカ」は、テオドリックの死とその後の後継人事を巡る内紛を口実とした東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌスによるイタリア侵攻で終焉を迎える。536年、皇帝ユスティニアヌスの命を受けた有能な将軍ベリサリウスがシチリアからイタリア半島に上陸し、18年に及ぶゴート戦役が始まった。この長きにわたる戦争によってイタリアは想像を絶する打撃と被害を受けた。自分たちと同じカトリック・キリスト教を信じるビザンチン帝国が始めたこの戦役の方が、一世紀前の蛮族の来襲以上に深刻な事態をローマ人に与えることになった。ゴート戦役に勝利したビザンチン帝国から送り込まれた皇帝代官の15年に及ぶ圧政によってイタリアと首都ローマは息の根を止められた。
この著作の最初の書評で次のようにコメントした。「研究者からは、『ローマ人の物語』を歴史書とするにはフィクションや著者の想像による断定が多すぎるとして小説として扱われているらしい。読者は、少なくとも私は、この著作に史実の学習を求めてはいない。史上に燦然と輝く「ローマ世界」とも呼ぶべき壮大な一大文明圏が、どのように形成され、長期に渡って維持され、そして消滅していったのかを知りたいと思っている。その点ではこの著作は期待以上に応えてくれている。「ローマ人の物語」からを学ぶべきは、史実ではなく文明観ではないかと思う」。
全43巻を読み終えた今、この著作についての最初の感想は、揺るぎのない確信になったことを告げている。文明観というかけがえのない視点を自分なりに学ぶことができたのだから。
最終巻の見開きにも次のようなカバー掲載の金貨の変遷についての印象的な記述があった。「時代が過ぎるにつれて鋳造技術のほうも発達する、というものではないことがわかってもらえるだろう。(略)歴史には進化する時代があれば退歩する時代もある。そのすべてに交き合う覚悟がなければ、歴史を味わうことにはならないのではないか」
最終巻は、「帝国以後」と題された47676年の西ローマ帝国滅亡以降のローマ世界の終焉の物語である。それは大きく分ければ、イタリア半島に侵攻した蛮族による支配で実現された「平和」(パクス・バルバリカ)と、その後の東ローマ帝国皇帝・ユスティニアヌスによるイタリア侵攻がイタリアと首都ローマの息の根を止めたという歴史の余りにも皮肉な現実の物語でもあった。
西ローマ帝国の最後の皇帝を退位させ、後継皇帝を立てなかったことによって結果的に帝国の幕引きをしたのが、西ゴート族の族長オドアケルだった。イタリア王となったオドアケルは、少数の勝者の蛮族と多数の敗者ローマ人との共生という巧みな統治を実行する。それは元老院階級とカトリック派キリスト教会という既存の統治階級の温存という形で具体化される。その上で軍事は蛮族が、行政や経済等はローマ人が担当するという棲み分けが行われた。この「パクス・バルバリカ」の第一走者オドアケルによるイタリア支配は17年に及ぶ。
オドアケルの支配を終わらせたのも蛮族・東ゴート族の若き族長テオドリックだった。オドアケルとの闘いに勝利したテオドリックは、オドアケルの政策をそっくりそのまま継承することで493年から33年に渡って東ゴート王国の王としてイタリア半島を支配する。西ローマ帝国滅亡直後から始まった「パクス・バルバリカ」は半世紀にわたって続き、イタリア半島はあらゆる面で生気を取り戻した。農業生産が向上し流通も回復し、減少一方だった人口までも上向くようになった。「平和(パクス)」が、人間社会にとっての窮極のインフラであることの証しだった。
「パクス・バルバリカ」は、テオドリックの死とその後の後継人事を巡る内紛を口実とした東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌスによるイタリア侵攻で終焉を迎える。536年、皇帝ユスティニアヌスの命を受けた有能な将軍ベリサリウスがシチリアからイタリア半島に上陸し、18年に及ぶゴート戦役が始まった。この長きにわたる戦争によってイタリアは想像を絶する打撃と被害を受けた。自分たちと同じカトリック・キリスト教を信じるビザンチン帝国が始めたこの戦役の方が、一世紀前の蛮族の来襲以上に深刻な事態をローマ人に与えることになった。ゴート戦役に勝利したビザンチン帝国から送り込まれた皇帝代官の15年に及ぶ圧政によってイタリアと首都ローマは息の根を止められた。
この著作の最初の書評で次のようにコメントした。「研究者からは、『ローマ人の物語』を歴史書とするにはフィクションや著者の想像による断定が多すぎるとして小説として扱われているらしい。読者は、少なくとも私は、この著作に史実の学習を求めてはいない。史上に燦然と輝く「ローマ世界」とも呼ぶべき壮大な一大文明圏が、どのように形成され、長期に渡って維持され、そして消滅していったのかを知りたいと思っている。その点ではこの著作は期待以上に応えてくれている。「ローマ人の物語」からを学ぶべきは、史実ではなく文明観ではないかと思う」。
全43巻を読み終えた今、この著作についての最初の感想は、揺るぎのない確信になったことを告げている。文明観というかけがえのない視点を自分なりに学ぶことができたのだから。
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