塩野七生著「レパントの海戦」 ― 2008年08月06日
塩野七生著作の「レパントの海戦」の再読を終えた。エーゲ海を舞台に中世の文明の交代期を描いた三部作の最終作である。キリスト教世界とイスラム教世界の「文明の衝突」を題材とした物語でもあると思った。第一作の「コンスタンティノープルの陥落」の舞台であるンスタンティノープルはアジアと接するヨーロッパ大陸の先端に位置する。第二作の「ロードス島攻防記」の舞台であるロードス島はアジア大陸に隣接したエーゲ海の西の端に浮ぶ島である。最終作「レパントの海戦」の舞台は東地中海を東のエーゲ海と西のイオニア海に分けているペロポネソス半島の西側の海域である。
年代順に大陸、島、海へと変遷する物語の舞台は、そのままイスラム文明のキリスト教文明に対する勢力圏拡大を企図した闘いの舞台を意味していた。レパント海域の闘いはオスマン・トルコ帝国の地中海世界制覇の仕上げの闘いを意味していた。ヴェネツィア共和国が領有する東地中海の唯一のキリスト教徒の基地であるキプロス島の、トルコ帝国による攻略に端を発した闘いであった。それはキリスト教世界にとってはコンスタンティノープル陥落に始まりロードス島明渡しに続く敗退の果ての崖っぷちの闘いであった。
1571年10月7日、レパント沖の海域で西欧キリスト教連合艦隊とトルコ艦隊が激突した。両軍合わせて500隻の船と17万人が正面からぶつかりあうガレー船同士の海戦としては最大で最後の闘いだった。トルコ艦隊は、イスラム世界の唯一絶対の専制君主スルタン・セリムが任命したアリ・パシャが総司令官である。これに対する西欧連合艦隊は、スペイン王国、ヴェネツィア共和国、ローマ法王庁、その他のイタリア諸国家からなる混成部隊である。ロードス島を追われマルタ島に籠る聖ヨハネ騎士団も参加している。キリスト教という共通の信仰を奉じる神聖同盟軍とはいえ利害が錯綜する同床異夢の艦隊である。その西欧連合艦隊が両軍入り乱れての激突を制して奇跡的な勝利をおさめた。無敵と言われたトルコ帝国の艦隊は壊滅的な敗北を喫した。
レパントの海戦は、トルコ帝国の不敗神話を西欧キリスト教勢力が初めて打ち破った闘いと言われる。「レパントの海戦」の物語では、連合艦隊の中核をなしたヴェネツィア共和国に対する作者の思い入れの深さが滲んでいる。海洋都市国家ヴェネツィアは、この勝利にもかかわらず国運の下降を食い止めることは叶わなかった。中央集権化された「領土型」のヨーロッパ近代国家が歴史の主導権を握る時代に既に入っていたのである。
今、新たな「文明の衝突」が懸念されている。グローバリズムで武装した大国アメリカのイスラム原理主義を掲げるアラブ諸国との軋轢が深刻な紛争の火種になっている。エーゲ海を舞台としたかっての「文明の衝突」も、ともに一神教を奉じる勢力間の闘いだった。「レパントの海戦」の作者である塩野七生氏は「ローマ人の物語」で多様な価値観や信仰や文化を容認しながら長期に渡る平和を築きあげたローマ世界の光芒を描いて見せた。人類はもう一度ローマ人の叡智に学べるだろうか。
年代順に大陸、島、海へと変遷する物語の舞台は、そのままイスラム文明のキリスト教文明に対する勢力圏拡大を企図した闘いの舞台を意味していた。レパント海域の闘いはオスマン・トルコ帝国の地中海世界制覇の仕上げの闘いを意味していた。ヴェネツィア共和国が領有する東地中海の唯一のキリスト教徒の基地であるキプロス島の、トルコ帝国による攻略に端を発した闘いであった。それはキリスト教世界にとってはコンスタンティノープル陥落に始まりロードス島明渡しに続く敗退の果ての崖っぷちの闘いであった。
1571年10月7日、レパント沖の海域で西欧キリスト教連合艦隊とトルコ艦隊が激突した。両軍合わせて500隻の船と17万人が正面からぶつかりあうガレー船同士の海戦としては最大で最後の闘いだった。トルコ艦隊は、イスラム世界の唯一絶対の専制君主スルタン・セリムが任命したアリ・パシャが総司令官である。これに対する西欧連合艦隊は、スペイン王国、ヴェネツィア共和国、ローマ法王庁、その他のイタリア諸国家からなる混成部隊である。ロードス島を追われマルタ島に籠る聖ヨハネ騎士団も参加している。キリスト教という共通の信仰を奉じる神聖同盟軍とはいえ利害が錯綜する同床異夢の艦隊である。その西欧連合艦隊が両軍入り乱れての激突を制して奇跡的な勝利をおさめた。無敵と言われたトルコ帝国の艦隊は壊滅的な敗北を喫した。
レパントの海戦は、トルコ帝国の不敗神話を西欧キリスト教勢力が初めて打ち破った闘いと言われる。「レパントの海戦」の物語では、連合艦隊の中核をなしたヴェネツィア共和国に対する作者の思い入れの深さが滲んでいる。海洋都市国家ヴェネツィアは、この勝利にもかかわらず国運の下降を食い止めることは叶わなかった。中央集権化された「領土型」のヨーロッパ近代国家が歴史の主導権を握る時代に既に入っていたのである。
今、新たな「文明の衝突」が懸念されている。グローバリズムで武装した大国アメリカのイスラム原理主義を掲げるアラブ諸国との軋轢が深刻な紛争の火種になっている。エーゲ海を舞台としたかっての「文明の衝突」も、ともに一神教を奉じる勢力間の闘いだった。「レパントの海戦」の作者である塩野七生氏は「ローマ人の物語」で多様な価値観や信仰や文化を容認しながら長期に渡る平和を築きあげたローマ世界の光芒を描いて見せた。人類はもう一度ローマ人の叡智に学べるだろうか。

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