水野和夫著「資本主義の終焉と歴史の危機」(その6)2014年08月25日

 著作の第4章は「西欧の終焉」がテーマである。資本主義の矛盾の蓄積が西欧ではどのような帰結を招いているかが語られる。
 2010年のギリシャの財政崩壊に端を発した欧州危機は、PIIGS諸国(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)にまで波及し、解決の糸口がみえない。著者は、この欧州危機が単なる経済危機ではなく、西洋文明の根幹に関わる問題であると主張する。
 「海の国」英米の海の時代の特徴は、領土支配でなく資本の「蒐集(しゅうしゅう)」という「資本」帝国化だったが、「陸の国」独仏は、EUというヨーロッパ統合の理念による「領土」の帝国化に向かった。独仏が手を携えて、単一通貨ユーロを導入し、共同市場を拡大させた。その過程で国民国家は徐々に鳴りを潜め、ヨーロッパはユーロ帝国という性格が色濃くなっていく。しかしそのEUが、欧州危機という形で行き詰まっていることは先にみたとおりである。
 ヨーロッパの歴史とは「蒐集」の歴史であり、それはノアの方舟に始まり、中世キリスト教は「魂」を、近代資本主義は「モノ」を「蒐集」してきた。「蒐集」という概念は、ヨーロッパ精神そのものを形作ってきた。そして今、ユーロ帝国は、資本でも軍事でもなく「理念」によって領土を「蒐集」しようとしている。独仏が目指す領土の「蒐集」とは、ヨーロッパの政治統合だ。現在の欧州危機は、経済合理性を無視した政治統合優先の過剰な「蒐集」がもたらした問題群だ。
 現代世界で起きている深刻な傷跡は「蒐集」の終着点と言える。2001年の9.11同時多発テロはアメリカ金融帝国が第三世界から富を「蒐集」することに対する反抗である。2008年の9.15リーマンショックはは過剰にマネーを「蒐集」しようとした「電子・金融空間」が、自らのレバレッジの重みに耐えきれず自滅した結果である。2011年の3.11大震災の原発事故は資源高騰に対して安価なエネルギーを「蒐集」しようとして起きた出来事と言える。そして欧州危機は独仏同盟による領土の「蒐集」が招きよせた危機である。
 資本主義は、時代に応じて重商主義、自由貿易、植民地主義、グローバリゼーションと中味を変えてきたが、「中心/周辺」という分割のもとで、富を中央に集中させるという「蒐集」のシステムであるという点では共通している。この「蒐集」のシステムから卒業しない限り、金融危機や原発事故のような巨大な危機が再び訪れる。