塩野七生「ローマ人の物語22」2024年09月12日

 塩野七生著「ローマ人の物語22」を再読した。この巻は「危機と克服」と題された皇帝ネロの死からトライアヌス登場までの30年の物語の中巻である。わずか2年の間に3人の皇帝が相次いで倒されるという異常事態の一方で、西と東の辺境で異民族の反乱が勃発する。西方のガリア人の独立宣言と東方のユダヤ人の反抗だった。
 この巻では第4章「帝国の辺境では」として東西の異民族の反乱の経緯が語られ、第五章「皇帝ヴェスパシアヌス」として窮地に陥った帝国の只中で帝位に就いたヴェスパシアヌスの帝国再建の経緯が語られている。
 皇帝ヴェスパシアヌスは病に倒れて亡くなるまでの10年間の帝位で見事に帝国再建を成し遂げる。著者はこの皇帝を「出自にも傑出した才能にも恵まれなかった」「時代が求めた別の資質、『健全な常識人』」とやや辛口で評価する。確かに直近2年間で相次いで入替った3人の皇帝たちの『異常で偏りのある資質』が招いた帝国の危機に、『健全な常識人』という資質の皇帝が果たした役割は欠かせない。その資質は「出自にも傑出した才能にも恵まれなかった」からこそ身につけた資質でもあったと思える。著者の人間観察の確かな視点に共感した。