高橋克彦著「風の陣--大望篇--」2015年02月15日

 高橋克彦著「風の陣」の第二巻「大望篇」を読んだ。物語の幕開けとなる第一巻の「立志篇」では、主人公である蝦夷の若者・丸子嶋足の平城京デビューと橘奈良麻呂の変の渦中にあって実力を備え、奈良朝に重きをなしていく過程が描かれた。
 「大望篇」では、奈良麻呂亡き後、権勢を振う藤原仲麻呂(恵美押勝)と、対抗勢力としてのし上がってきた弓削道鏡との確執の狭間にあって嶋足とその相棒ともいうべき物部一族の若棟梁・天鈴の一派との三つ巴の争いが描かれる。その争いは「藤原仲麻呂の乱」として史実に残る形で仲麻呂が敗れ去ることで決着し、大望篇も、嶋足等の活躍による乱平定をもって幕を閉じる。
 高橋版古代歴史小説の2巻を読了した。徐々に作者の個性や手法が見えてきた。北方謙三の歴史小説にある志に満ちたロマンチシズムに比べ、政治的リアリズムに満ちた作風である。「政(まつりごと)」とは、かくも政治的駆け引きや謀略に満ちたものかと、作者のその透徹したリアリズムに舌を巻く。それはそれで作家の卓越した創造力のなせる技と驚嘆するが、北方作品に馴染んだ直後の身には一抹の苦さを覚えてしまう。とは言え、物語はまだまだ続く。動乱が続く奈良朝の歴史物語を堪能しながら高橋作品を味わうことにしよう。