英雄たちの選択”内藤湖南”2022年03月19日

 よく観るテレビ番組のひとつにNHKの「英雄たちの選択」というドキュメンタリー番組がある。先日の番組は「千年のまなざしで中国をみよ 内藤湖南が描いた日本と中国」というタイトルだった。
 内藤湖南という人物は知らなかったが、”千年のまなざしで中国をみよ”というキャッチコピーに惹かれた。習近平という傑物の独裁者を得た中国は今やプーチン大統領率いるロシアと並んで国際社会に圧倒的な存在感で不吉な影を落としている。そんな中国を単に独裁国家、価値観の異なる社会として切って捨てても意味はない。可能な限り正確な実像を理解する必要がある。そんな気分にドンピシャの番組だった。
 番組の紹介記事には次のような解説があった。「明治から昭和を生き、日本の中国史学の礎を築いた内藤湖南。湖南は中国の歴史を千年さかのぼり、社会に通底する特質を見抜いていった。中国を知るヒントとなる特質とは」。60分の番組を通して次のような感想を抱いた。
 番組の中心は内藤湖南が唱えた「唐宋変革論」の紹介である。唐代と宋代の間に起きた大規模な変革が中国史を画期的に変えたという説である。唐代以前を貴族中心の時代と位置づけ、それに続く宋代では、皇帝に並んで庶民が政治・経済・文化の中心になると解釈される。番組では内藤湖南が見抜いた中国の本質とは「皇帝の強大な権力と自立した平民社会である」と紹介する。中国という途方もない国土と民の統治には皇帝の強大な権力だけでは不可能である。底流にある民の伝統的な自治組織の存在を抜きには困難である。それでも皇帝が代を重ねるにしたがって不可避な歪んだ統治に反発する民の反発力が王朝交代を招いてきた。
 今日、中国共産党という王朝が習近平という皇帝に率いられて世界一の人口を持つ国を統治している。かつての王朝がなしえなかった膨大な民の個々の統治はITという技術によってきめ細かく補足され、共産党という強固な官僚組織がそれを支配している。
 今、日本や世界が向き合わなければならない中国とは、内藤湖南が指摘した本質を身にまとった中国である。