水野和夫著「資本主義の終焉と歴史の危機」(その2)2014年08月07日

 著者は、「資本主義は死期に近づいている」という。その証として先進各国の国債利回りが2%を下回り、短期金利が事実上ゼロ金利となっていることをあげる。資本主義とは資本の自己増殖のためのシステムである。その自己増殖の目安である利子率(=利潤率)が、日本では10年国債の利回りがほぼゼロの事態が20年近く続いている。英米独の国債利回りも超低金利現象を起こしている。つまり資本の自己増殖機能を実質的に喪失した現状を資本主義システムの死期の始まりと喝破する。
 資本主義を「資本の自己増殖システム」という捉え方に瞠目した。従来、社会主義の「計画経済」との対比で資本主義を「市場経済」という捉え方が一般的だったと思う。ソ連邦の瓦解やベルリンの壁崩壊、中国やベトナムの市場経済導入といった歴史的事象を受けて、市場経済(=資本主義)の正統性が歴史的に証明されたかにみえた。
 果たしてそうなのか?昨今のハゲタカファンド、バブル崩壊、格差社会、環境破壊、食品汚染等の資本主義経済下で引き起こされる危険で醜悪な事態の頻発は、資本主義経済そのものへの懸念を抱かせている。
 そうした懸念にこの著作は明快に「解」を提示する。以下は「第1章 資本主義の延命策でかえって苦しむアメリカ」の要約である。
 『資本主義は「中心」と「周辺」から構成され、「周辺」つまり、いわゆるフロンティアを広げることによって「中心」が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステムである。アメリカを覇権国とするグローバル資本主義は、「地理的・物理的空間」というフロンティアの拡大に邁進した。ところがヴェトナム戦争終結によってアメリカの軍事力を背景とした市場拡大が頓挫した。そこでアメリカは「電子・金融空間」に利潤のチャンスを見つけ、「金融帝国」化していくことで資本主義の延命を図った。ITと金融業が結びつくことで、資本は瞬時にして国境を越え、キャピタル・ゲインを稼ぎ出すことができるようになった。ところがこのアメリカ金融帝国も、2008年のリーマン・ショックで崩壊した。自己資本の40倍、60倍で投資をしていたら、金融機関がレバリッジの重さで自壊し、バブルはあっけなく崩壊した。バブル生成過程で富が上位1%の人に集中し、バブル崩壊の過程で国家が公的資金を注入し、巨大金融機関が救済される一方で、負担はバブル崩壊でリストラされるなどの形で中間層に向けられ、彼らは貧困層に転落することになった。
 振り返れば「地理的・物理的空間」で利潤をあげることができた1974年までは、資本の自己増殖(利益成長)と雇用者報酬の成長とが軌を一にしていた。資本と雇用者は共存関係にあった。しかし、グローバリゼーションが加速したことで、雇用者と資本家は切り離され、資本家だけに利益が集中することになった。資本主義は「周辺」の存在が不可欠であり、BRICSのように途上国が成長し新興国に転じれば、新たな「周辺」を作る必要がある。それがアメリカではサブプライム層であり、日本では非正規社員であり、EUではギリシャやキプロスである。国境の内側で格差を広げることも厭わない「資本のための資本主義」は、民主主義も同時に破壊することになる。民主主義は価値観を共有する中間層の存在があってはじめて機能するものであり、中間層の没落は、民主主義の基盤を破壊する』
 「資本主義の資本の自己増殖システムという視点」を前提にしてはじめて今日の数々の危険で醜悪な事象の本質が理解できた。結果的にバブルが生まれたり崩壊したりするのでもなければ、格差社会になったりするのでもない。まさしく貪欲な資本増殖の「意志」が生み出す事象である。グローバリゼーションに乗り遅れることは死を意味するなどといった強迫観念が、金融ビッグバン、労働の規制緩和、TPPといった市場拡大に向けて一層の規制緩和に狂奔させている。それは資本の自己増殖の意志の裏返しでしかない。

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