塩野七生著「ローマ人の物語36」 ― 2025年03月10日

ローマ人の物語36巻を再読した。この6巻はディオクレティアヌス退位後の四人の皇帝による第二次四頭政から六人の皇帝乱立へと続く内乱状態、そして最終的にコンスタンティヌスが覇権を握るまでの物語である。
英雄たちが現われては消えるこの時期の帝国内部の攻防は、物語としては面白いがローマ帝国自体の興亡という面では本質的ではない。むしろこの時期の本質的な出来事は、東の正帝リキニウスと西の正帝コンスタンティヌスの連名で313年に公布された「ミラノ勅令」だろう。そこでこの書評はこの巻の巻末40頁の「キリスト教公認」をテーマとした。
ミラノ勅令は「キリスト教の帝国内における公認」を内容とする勅令である。もちろんこの勅令は皇帝のキリスト教への改宗表明でもなければ、他の宗教に比べての優遇措置でもない。帝国内での完全な信教の自由を認め、公にしたに過ぎない。にもかかわらずこの勅令が歴史を画する重大な史実とされるのは、ローマ人が千年以上にわたって持ち続けた宗教に対する伝統的な概念を断ち切った点にある。
それまでのローマは、ローマという「共同体」に属する住民に、個人の信ずる神が何であれ、共同体全体の守護神であるローマ伝統の神々には相応の敬意をもって対するよう求めてきた。ミラノ勅令によってもはやその必要はないということになった。ローマ帝国は後期に入っても尚、多人種、多民族、多宗教、多文化の帝国だった。この大帝国は、「ローマ法」「ローマ皇帝」「ローマの宗教」というゆるやかな輪によってまとまりを保ってきた。ミラノ勅令は、そのうちの「ローマの宗教」という輪をはずしたのだ。「信教の完全な自由」というそれ自体は非難のしようもないくらいに理に適ったものだが現実にはそれ以降の信教の自由が守られなくなってしまう中世社会への扉を開く契機となった。
英雄たちが現われては消えるこの時期の帝国内部の攻防は、物語としては面白いがローマ帝国自体の興亡という面では本質的ではない。むしろこの時期の本質的な出来事は、東の正帝リキニウスと西の正帝コンスタンティヌスの連名で313年に公布された「ミラノ勅令」だろう。そこでこの書評はこの巻の巻末40頁の「キリスト教公認」をテーマとした。
ミラノ勅令は「キリスト教の帝国内における公認」を内容とする勅令である。もちろんこの勅令は皇帝のキリスト教への改宗表明でもなければ、他の宗教に比べての優遇措置でもない。帝国内での完全な信教の自由を認め、公にしたに過ぎない。にもかかわらずこの勅令が歴史を画する重大な史実とされるのは、ローマ人が千年以上にわたって持ち続けた宗教に対する伝統的な概念を断ち切った点にある。
それまでのローマは、ローマという「共同体」に属する住民に、個人の信ずる神が何であれ、共同体全体の守護神であるローマ伝統の神々には相応の敬意をもって対するよう求めてきた。ミラノ勅令によってもはやその必要はないということになった。ローマ帝国は後期に入っても尚、多人種、多民族、多宗教、多文化の帝国だった。この大帝国は、「ローマ法」「ローマ皇帝」「ローマの宗教」というゆるやかな輪によってまとまりを保ってきた。ミラノ勅令は、そのうちの「ローマの宗教」という輪をはずしたのだ。「信教の完全な自由」というそれ自体は非難のしようもないくらいに理に適ったものだが現実にはそれ以降の信教の自由が守られなくなってしまう中世社会への扉を開く契機となった。
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