水汲み2008年06月22日

 幼い頃、生家の土間には水汲みポンプがあった。水道設備のなかった頃である。飲料水はもっぱらこのポンプで汲み上げていた。この水汲みは通常は母親の役回りだが、夕食前など忙しい時はしばしば私たち子供の仕事になっていた。ポンプの取っ手を上下に動かすと、水圧で押し上げられた地下水がガバーッと大きな蛇口から流れ出る。幼い子供には結構体力の要る仕事だった記憶が残っている。
 あれから50年以上経った。住宅街の中にあるスーパーマーケットにクッキングウォーターの自動販売機が設置されている。メイン顧客である主婦たちの水に対する異常とも思えるこだわりが背景にある。通常は有料なのだが土日の週末だけは集客用に無料となる。そこで週末の自販機前にはしばしば無料の純水を求めて専用ボトルを抱えた顧客の列ができることになる。1回にボトル2個までと制限がある。リタイヤ前後から週末の家内の水汲みに付き合わされる羽目となった。二人で並べば保有の3ボトルを1回で調達できるからという家内の強い要望に屈服した。以来、悪しき慣行が定着してしまった。スーパーマーケットの入口近くの自販機前に夫婦で並ぶわけである。どうみても様にならない。ところが並んでいる列の中にリタイヤ後のオジサンたちがひとりで並んでいる姿が増えている。給水ボトルの数合わせのための頭数でなく自身の役割と心得たかのような風情である。これが蔓延すればどうなるのだろう・・・・。リタイヤ族にとって取り返しのつかない風潮を招きはしないか。
 幼い頃のポンプの水汲みが、50年後の自販機前の水汲みに重なった。