乙川優三郎著「露の玉垣」 ― 2010年08月06日
久々の書評は乙川優三郎の近著(今年7月の文庫版発行)「露の玉垣」だった。読みおえて思ったのは、この作品は時代小説なのだろうか、歴史小説なのだろうかということだった。
歴史の舞台を借りて物語りを展開する時代小説に対して、可能な限り史実にもとづいて歴史上の人物や事件を描く歴史小説という一般的な区分がある。乙川優三郎は現役の優れた時代小説作家であると思う。その作家が、越後・新発田藩溝口家の正史「御記録」や家臣の譜「世臣譜」を素材として八編の短編集として著述したものが「露の玉垣」だ。その意味で手法はまさしく歴史小説と言える。ただいずれの作品にも歴史上の著名な人物や事件は登場しない。
越後の米どころを領地とする小藩を舞台とした武家社会の様々な人間模様が展開される。全編を通して流れるテーマは、湿地帯の水田を襲う川の氾濫という「自然との戦い」と、それ故に免れようのない藩財政の困窮という「貧困との戦い」である。歴史の華やかな表舞台で展開される歴史小説からはほど遠い地味な武家社会の実像が淡々と描かれる。それは実在の資料を素にした物語だけに迫真のリアリティを帯びて展開される。
著名な歴史上の事件や人物をテーマにしていないという意味では時代小説に近い。史実に限りなく近いという点ではこれほど歴史小説としての特性をもった作品はない。乱暴な表現をすれば「限りなく時代小説に近い歴史小説」と言ったところだろうか。この作家の巧みで美しい文体と登場人物たちの示唆に富んだ心理描写の冴えは相変わらず見事である。それ以上に、歴史小説と時代小説の垣根を設けることの無意味さを知らされた作品というインパクトが大きい。
歴史の舞台を借りて物語りを展開する時代小説に対して、可能な限り史実にもとづいて歴史上の人物や事件を描く歴史小説という一般的な区分がある。乙川優三郎は現役の優れた時代小説作家であると思う。その作家が、越後・新発田藩溝口家の正史「御記録」や家臣の譜「世臣譜」を素材として八編の短編集として著述したものが「露の玉垣」だ。その意味で手法はまさしく歴史小説と言える。ただいずれの作品にも歴史上の著名な人物や事件は登場しない。
越後の米どころを領地とする小藩を舞台とした武家社会の様々な人間模様が展開される。全編を通して流れるテーマは、湿地帯の水田を襲う川の氾濫という「自然との戦い」と、それ故に免れようのない藩財政の困窮という「貧困との戦い」である。歴史の華やかな表舞台で展開される歴史小説からはほど遠い地味な武家社会の実像が淡々と描かれる。それは実在の資料を素にした物語だけに迫真のリアリティを帯びて展開される。
著名な歴史上の事件や人物をテーマにしていないという意味では時代小説に近い。史実に限りなく近いという点ではこれほど歴史小説としての特性をもった作品はない。乱暴な表現をすれば「限りなく時代小説に近い歴史小説」と言ったところだろうか。この作家の巧みで美しい文体と登場人物たちの示唆に富んだ心理描写の冴えは相変わらず見事である。それ以上に、歴史小説と時代小説の垣根を設けることの無意味さを知らされた作品というインパクトが大きい。

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