高橋克彦著「時宗・全四巻」2022年01月25日

 高橋克彦著「時宗・全四巻」を再読した。存分に楽しめる名作だった。タイトルは「時宗」だが、内容としては「時頼・時宗」物語である。実際、全四巻の内、前二巻の主人公は時宗の父で5代執権・北条時頼である。
 読了して痛感したのは、時宗以上に時頼の偉大さだった。時頼は頼朝亡き後の執権政治に批判的な一門や有力御家人を制して執権政治の態勢を整え盤石のものとした。他方で早い時期からモンゴル帝国・クビライによる日本侵攻に危機感を持ち、迎え撃つための国内統一に向けた態勢を固めた人物だった。
 この著作を通じて思ったのは、蒙古襲来の時期が、日本では時頼・時宗親子の率いる執権政治の全盛期に重なったことの僥倖だった。この時期以外の前後いずれであっても日本は2度に及ぶ蒙古襲来を退けることは叶わなかったのではないか。
 著者は”神風”が蒙古襲来を退けたとする通説に異を唱えているかに思える。全四巻の著述の圧倒的な分量は蒙古襲来迄の政権内の態勢固めで占められている。襲来後も蒙古軍を太宰府にまでおびき寄せ退路を断って全滅させるという時頼が構想した壮大な戦略の展開に多くが費やされている。未曽有の嵐によって蒙古軍が壊滅するくだりはわずか数頁に過ぎない。
 そうした作品の構成そのものが、蒙古軍を迎え撃ち撃退させたのは鎌倉幕府の周到な準備と果敢な武者たちの闘いだったという著者の立場を裏付けている。全く同感である。

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