30倍ズームがツグミを捉えた2012年04月01日

 日曜の早朝である。再び寒さが戻ってきた。三寒四温とはよく言ったものだ。有馬川沿いの竹藪からは春告げ鳥・ウグイスの鳴き声が日々力強さを増している。こんな季節の散歩にはデジカメが欠かせない。最近手に入れた最新機種の最大30倍ズームを手に野鳥たちの姿を追い求める。残念ながらウグイスの姿は竹藪の緑に溶け込んで見つけることは至難の技だ。
 さくら並木の枯れ枝からチッチッと鋭い鳴き声が聞こえた。見上げると一羽のツグミがテッペン付近の枝にとまってさえずっていた。歩みを止めてデジカメを構えズームのつまみを一杯に引いた。10m以上の距離も30倍ズームはものともしない。モニターには特徴のある目の上の白い帯がくっきり写っている。
 期待したカワセミは今日も目にすることはなかった。

藤沢周平著「用心棒日月抄」2012年04月02日

 藤沢周平著「用心棒日月抄」を再読した。4作からなるシリーズの第1作である。東北の小藩を脱藩し、江戸で浪人暮らしをする青江又八郎の用心棒暮らしを事件ごとに短編の連作で綴った作品だ。
 著者の作品には時代物の短編連作シリーズが多い。つい最近読んだ「彫師伊之助捕物覚え」「隠し剣シリーズ」「神谷幻次郎捕物控」なども短編連作集である。この作品も江戸を舞台とした用心棒家業という設定での短編10作品からなる連作ものである。藤沢周平という作家の所を変え品を変えて物語を紡ぎ出す豊かな創造性に感服する他はない。
 この作品の特徴は、肩の凝らない娯楽作品として思い切り楽しめるということではあるまいか。著者のテーマ性を帯びた暗さを背負った作品も多い中でこの点は特筆すべきだろう。「忠臣蔵」の逸話が著者の独自の視点で巧みに各作品に取り込まれ、作品の時代背景と奥行きの深さを味付けしている。

知人の訃報2012年04月03日

 お昼前に自宅FAXの着信音が鳴った。いつもの労働委員会関係の書類なら事前に電話連絡がある筈だ。何事かと排出されつつあるペーパーのタイトルを確認した。「訃報」の文字が目に入り不安がよぎった。差出人は出身企業の労組で、現役時代の古い友人の死を告げていた。
 彼は新潟に本拠を置く企業の労組委員長を定年まで勤め上げた人だ。私の現役の労組役員時代に同じ業界の上部組織に属して親密なおつき合いがあった。訃報には享年63歳の記載があり、若すぎる死を物語っていた。
 告別式に参列予定の出身企業労組委員長に連絡をとった。訃報連絡の謝辞と哀悼の意を託した。自宅仏壇に向かってそっと冥福を祈った。私自身の訃報発信に至るまで、幾度となく重ねることになる筈の個人的なセレモニーだった。

つぼみ咲きのさくらまつりか?2012年04月04日

 日本列島を春の嵐が襲った日の翌朝だった。朝からテレビは昨日の季節外れの台風襲来を思わせる自然の猛威の爪跡を伝えている。そんな報道を後にいつも通り早朝ウォーキングに出かけた。
 昨日の荒れ放題の空模様と打って変わった晴天だった。気温こそ低めだったが戸外には穏やかで柔らかな陽光が待ち受けていた。その筈である。暦は既に四月に入っているのだ。山口のさくらまつりが三日後に迫っている。
 有馬川土手沿いのさくら並木にやってきた。昨日の激しい風雨が水量をかさ上げして川の流れを加速していた。激しい流れをバックに光沢の皮をまとったさくらの幹が朝日に照らされてテカっていた。緑の額の先に濃いピンクの蕾が息づいていた。
 到底三日後のさくらまつりには間にあわない。それでもつぼみ咲きのさくらまつりがあってもいい。

有馬温泉観光協会でのプレゼン2012年04月05日

 先月中旬に有馬温泉観光協会を訪ねた。市民ミュージカル劇団『希望』後援会の事務局長の立場で創作ミュージカル有間皇子の上演に向けた支援依頼が目的だった。観光協会事務局長にお会いし「理事会等で説明してもらう機会を設けたい」との返事を頂いた。その後事務局長から連絡があり、今日の観光協会理事会で説明の機会が設けられた。
 2時半に観光案内所を訪ね、しばらく待って2階の会議室に案内された。事前に「他の案件も多く10分程度の説明にとどめてほしい」と釘をさされていた。10人ほどの理事さんたちを前に事前に簡潔にまとめたメモを手に説明した。「劇団が誕生した経緯」「地域おこしとミュージカル」「なぜ有間皇子なのか」「創作ミュージカル有間皇子上演に向けて」といった内容である。
 幾つかの質問を受けた後、議長の「観光協会として会員にシンポジュウムの案内をする」というまとめを伺った。ひとまずは役割を果たしたと安堵しながら退席した。

藤沢周平著「用心棒日月抄・孤剣」2012年04月06日

 藤沢周平著「用心棒日月抄」の第二作「孤剣」を再読した。第一作を読んですぐにも第二作を読みたいと思った。第一作はそんな想いに駆られる作品だった。そのシリーズ二作目も快調である。
 著者の構想力や構成力の巧みさに舌を巻いた。第一作では主人公・青江又八郎の脱藩の原因となった事件の真相を又八郎自身が暴くことで藩への帰参を達成し、江戸での用心棒家業に決別する。ところが著者はあらたな事件を用意して再び又八郎に江戸に向かわせる。藩の密命故に脱藩の形をとらざるをえない又八郎はまたもや用心棒家業を続けながらミッションに取り組むことになる。こうした展開がいかにも自然で読者をして物語の世界に巧みに誘導する。
 登場人物にも魅力的な人物を投入される。口入れ屋・相模屋吉蔵、用心棒仲間の浪人・細谷源太夫といった個性豊かな常連に、あらたに痩浪人・米坂八内や女忍者・佐知を加え、一層ふくらみのある展開をみせる。それでいて第二作も用心棒家業での事件を扱いながら、きっちり又八郎自身の密命達成の落とし前をつけて無事藩に帰還するのである。
 このシリーズは全四作である。書棚を探したが第四作が見つからない。購入を見逃したのだ。ネットで早速検索すると98円の中古本がヒットした。送料込でも400円ほどの楽しみをすぐに発注した。

つぼみ咲きのさくらまつり2012年04月07日

 山口のさくらまつりの日を迎えた。シチュエーションとしては最悪のさくらまつりだった。とにかく寒かった。風が冷たかった。何よりも遅い春の訪れがつぼみのままのさくら並木を舞台にした。
 それでも大勢の住民が有馬緑道を埋めた。昨年のさくらまつりは東日本大震災で中止となった。奇しくも2年ぶりのさくらまつりは10周年の記念のまつりとなった。
 幾張りものテントにはボランティア組織の食べ物屋台が立並ぶ。ひときわ広い社協のふれあい喫茶にはお年寄りを中心に大勢の来訪者が歓談している。飲物やパスタを提供するのは主婦や山中の生徒たちのボランティアだ。さくらまつりという地域全体のイベントが世代を超えた交流の場を生み出している。それは10回もの回を重ねて、昔ながらの町と新興住宅街という枠を超えてオール山口の共通のまつりとして着実に根付いてきた。
 気候の寒さを超えてイベントに関わった大勢の人たちの暖かさがあった。

土筆とコサギ2012年04月08日

 寒いさくらまつりの翌朝もまた寒かった。いつも通りの早朝ウォーキングで寄り道をした。そういえば今年はまだ土筆にお目にかかってないとふと気がついたからだ。
 永年の土筆採りの経験から群生する場所は承知している。行ってみると朝霜の気配が残る湿地に土筆たちが姿を見せていた。例年になく寒さの残る今年の気候である。どの土筆も生育不足の未熟児の様相で寒そうに身を寄せ合っていた。これではまだ土筆採りには早いと断念した。
 有馬川沿いの散歩道に戻った。依然としてつぼみのままのさくら並木を歩いた。有馬川の向う岸で白いコサギが佇んでいた。昇ったばかりの朝日を浴びて日向ぼっこをしているかのようだ。敏感な筈のコサギは微動だにしない。
 慌ただしくもストレスの多かった一週間の終わりの日に自然の恵みに癒された。

県民交流広場の産みの苦しみ2012年04月09日

 昨春から在住地区の自治会を中心に県民交流広場校区協議会の立上げに関わった。昨年10月には県の認可を得て正式に発足した。小学校区内の6自治会と社協や青愛協など6ボランティア組織で構成される組織である。半年を過ぎて今春から新年度の本格的なスタートを切ることになった。新年度の活動方針の議論を通してあらためて県民交流広場とは何かが問われた。何をめざしどんな活動が必要かについて三役や役員間のスタンスの相違が表面化した。
 役員は大別するとこの協議会設立を提案した中心地区自治会の前役員と、提案を受けてあらたに関わった他の自治会やボランティア組織の派遣役員に分かれる。今は出身組織の自治会役員を離れて自由な立場にある前者に対して、出身組織派遣の後者は協議会の決定や活動をどのように組織に持ち帰るかという点からも、趣旨目的を明らかにした上で出身組織として何をどのように関われるかが問われる立場にある。
 この違いが協議会の今後の在り方についてのスタンスの違いを生み出しているように思えた。相違点のひとつに会議の進め方がある。前自治会役員たちは気心のしれた仲間たちと和気あいあいと会議を進めたいという想いが強い。多少テーマがあっちこっちしてもかまわないではないか。時には一度確認されたことでも議論してひっくりかえっても許されるという気分がみえる。他方で組織派遣メンバーはキチンとした議事進行のもとで確認された内容を持ち帰り報告しなければならない。確認が安易にひっくり返る等は及びもつかない。自ずとスタンスは違ってくる。
 もうひとつの相違点はどんな活動をするかという点である。前自治会役員たちはともすればそれまでの自治会活動の延長線上の活動を考えがちである。それは構成組織が既にやっている活動に被ってしまうこともある。県民協議会でしかできない活動こそやってもらいたいというのが派遣役員の期待である。
 いずれにしろ発足したばかりの組織である。既存組織と違って前例や進め方のコンセンサスがあるわけではない。産みの苦しみを味わっていると言えなくもない。個人的には派遣役員の立場から「県民広場は6自治会にまたがる広域のコミュニティーであり、趣旨や性格の異なる6ボランティア組織と自治会で構成される複合コミュニティーである。この特性を活かし県民広場でしかできない活動を展開すべき」と積極的に発言してきた。しかし認識のズレは大きく時に人間関係にまで及びかねない。これ以上同じ位置で関わることは組織にとってもマイナスと判断した。新年度を控えて三役の一員を辞し一役員として少し距離をおいて関わることを表明し承認された。

春霞みとタモの木のツグミ2012年04月10日

 小学校の入学式の日の朝は、一気に春めいた穏やかな日和だった。ポカポカ陽気の中を、有馬川と稲田に挟まれた土手道を歩いた。さくら並木の先に愛宕橋とタモの木が見える。郷愁を誘うお気に入りの風景だ。その風景が春霞みに覆われてボンヤリ滲んでいる。それがまた一段となごみの風情をかもしている。
 愛宕橋までやってきた。野鳥の鳴き声を耳にする。橋のたもとのタモの木にとまったツグミが忙しげに左右を見廻しながらさえずっていた。10日ほど前にも撮ったツグミをブログでアップした。あるブロガーさんから「ツグミの目に小枝が被っているのが残念」というコメントを頂いた。今度こそ挽回とばかりデジカメを構えてズームを引いた。自宅でチェックした画像には、横向きに鋭い視線を投げるツグミの凛々しい姿がキャッチされていた。バンザイ。ちっぽけな幸せに浸った。