京都老舗料亭・菊乃井の昼食&都をどり2012年04月22日

 娘の婚家の京都のご両親から「都をどり」にお招き頂いた。ご招待のハガキには集合場所が「祇園石段下」となっている。ネットで調べるとこの通称のような場所は八坂神社の楼門前の石段下をさし、立派な固有名詞のようだ。
 11時40分の集合時間にかなり早く着いた。八坂神社に参拝した後、楼門前でご両親と娘夫婦と合流した。八坂神社境内を抜け丸山公園の枝垂れ桜前を通って昼食会場の東山の老舗料亭・菊乃井本店に着いた。ミシュランガイド三ツ星獲得の店でオーナー料理長はテレビ・魔法のレストランなどにも出演する著名人のようだ。竹林の中の風情のある仕舞屋(しもたや)風の玄関が待ち受ける。二階席に案内され「時雨めし弁当」と名付けられた料理が運ばれた。懐石料理をコンパクトにまとめたもので、これぞ京料理といった感じの贅沢なお弁当だった。
 都をどり会場の祇園甲部歌舞練場は、菊乃井から徒歩10分位の場所にあった。京町家の優雅な街並みの続く花見小路に入る。「おみやさん」や「京都地検の女」などのミステリードラマでお馴染みの風景が目前にあった。その南端の広大な敷地に建つ歌舞練場には大勢の観客が列をなしていた。
 観覧前に歌舞練場2階のお茶席で抹茶を頂いた。点茶はお手前を芸妓が、控えを舞妓が担当する習わしのようだ。黒紋付の芸妓とだらりの帯の舞妓の艶姿に多くの人がカメラを向ける。入替制のお茶席を終えて劇場に入った。用意して頂いた指定席券は二階の正面椅子席だった。900席ほどの思った以上に大きな劇場である。14時開演の2回目の公演が始まった。
 「都をどり」は毎年4月に1ヶ月間上演され、京の風物詩となっている。毎年テーマ(歌題)に沿って1時間の公演が全八景で四季の移ろいを中心に舞で表現される。明治5年の初演から数えて140回目の今年は「平清盛由縁名所(たいらのきよもりゆかりのなどころ)と題した舞台だった。幕が開くと左右の花道から「ヨーイヤサー」の掛け声とともに枝垂れ桜の図柄の青い着物姿の20名の芸妓舞妓がゆっくりと登場する。一旦上がった幕は終演まで降りることはない。暗転と舞台背景の入れ替えで展開される。第五景の源義経が平知盛の怨霊と切り結ぶ歌舞伎風の場面が印象的だった。その第五景の暗い舞台が暗転し、第六景・晩秋大原里の秋の紅葉場面への切り替えの鮮やかさに息を呑んだ。最後の第八景は清水寺をバックとした出演者60名全員の演じる圧巻のフィナーレで幕を閉じた。
 オペラグラスの代わりに双眼鏡を持参した。出演者たちの遠目には似たような顔が、レンズ越しにアップで見ると驚くほど個性豊かだった。白粉の下に隠された皺の相違が年齢差をくっきりと浮かび上がらせる。それにしても踊りだけの舞台に意外にも退屈せずに過ごせたことに驚いた。140年もの歴史を重ねた伝統芸の深みなのか。一生に一度は観ておきたい芸能にちがいない。
 3時過ぎに歌舞練場を後にして河原町に向かった。花見小路を出て四条通を西に向かうとすぐにアノ悲惨な暴走車事件の現場があった。路面には白墨の跡が今尚残っている。交差点の一角に山のような花束が見えた。ケーキ屋さんの2階のカフェでお茶とケーキを囲んで「都をどり」の余韻を愉しんだ。阪急河原町駅を4時発の特急電車で帰路に着いた。貴重な非日常の体験をした一日だった。