塩野七生著「ローマ人の物語12」2023年08月02日

 「ローマ人の物語・第12巻」を再読した。古代ローマの傑出した英雄であるユリウス・カエサルシリーズの第5巻である。
 ポンペイウスとの直接対決に勝利したカエサルは、地中海全域の覇者となる。この巻では、終身独裁官に就任したカエサルが、広大化したローマ国家の元老院主導の寡頭政体の限界の脱皮を目指して本格的な国家改造にのりだしていく様が詳細に綴られる。
 カエサルの政治姿勢は「寛容」という精神で貫かれている。その精神を背景に、多民族、多文化、多宗教、多人種、多言語からなる属州と同盟国で構成される広大な領土を統治する。新秩序確立に向けて、通貨改革、行政改革、金融改革、属州統治、司法改革、社会改革、首都再開発等、ひとりのリーダーが担うには余りにも多くの重大な改革を見事に成し遂げる。西欧人にとってカエサルが史上突出した巨人として受止められている所以である。
 紀元前45年、55歳になったカエサルは市民集会によって様々な栄誉と権威と権力を与えられる。古代ローマ国家にかつてかった形でひとりの人物への権力の集中が実現する。事実上の帝政の実現を意味していた。
 こうした事態に元老院主導の寡頭政という共和政体を信奉する元老院議員たちのグループが危機感を募らせる。カエサルの「寛容」がそうした人々を元老院の場に温存することにもなった。そして反カエサル派の元老院議員を中心としたカエサル暗殺グループが誕生する。
 こうして物語は「カエサル暗殺」という古代ローマ史の最大のクライマックスへと導いていく。