彼岸花2006年10月01日

 久々に有馬川を歩いた。9日間の海外旅行の後、生活のリズムを取り戻すには相応の時間を要する年齢になっている。時差ぼけの後遺症は、眠れない夜を数えさせ、休日の早朝ウォーキングに駆り立てる意欲を萎えさせていた。そんな数日を過ごした後のウォーキングだった。
 有馬川の川沿いの土手を、爽やかな微風が通り抜けていた。堤の斜面のあちこちが真っ赤な斑点で染められている。彼岸花が咲き誇っていた。
 小津安二郎監督の名画のタイトルにもなった彼岸花という上品な名前は、この野花には似合わない。私の幼い頃は、「てくされ」と呼ばれ、触ると手が腐るというおどろおどろしい印象があったものだ。
 この花ほど多くの名前を持つ花も珍しい。「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」というのも代表的な呼び名のひとつだ。私たちの年代で曼珠沙華と聞けば真っ先に思い浮べる歌がある。『赤い花なら曼珠沙華 オランダ屋敷に雨が降る 濡れて泣いてるじゃがたらお春・・・・・』 この花の持つ毒々しさにはほど遠い悲しくて切ない歌だった。
 とはいえ、この花がもたらす季節感は、その強烈な存在感ゆえに圧倒的だ。その朱色のかたまりを田んぼのあぜ道のあちこちで目にした時、なぜか安らぎを覚えるのも否定できない。
 半月ばかりのブランクの後の散歩道で、咲き誇る彼岸花が、夏から秋への季節の移ろいを告げていた。