同人誌に掲載された二人の知人の作品(その2)2024年01月03日

 同人誌「AMAZON」に掲載されたもうひとりの知人女性の作品は「あじさゐ幻想」と題された短編小説である。
 27歳の女性の友人の紹介で出合った男性との交際の顛末を描いた物語である。私の読書体験からは距離のあるトーンの作品だった。それだけに作品の味わいを受止めるために丁寧な読込みが必要だった。
 主人公理子の交際相手Tに寄せる平坦な想いが、紫陽花と雨の風景に溶け込んで微妙に揺れ動く。絵画教室を営む作者の絵画風の描写が重なり合う。
 主人公のどこまでも噛み合わないTへの想いは、「何故かTは現在の理子の夫である」という作品のラストの一文で思いがけない展開を見せる。紫陽花を扱った大伴家持、石川啄木の歌や泉鏡花の俳句が効果的に挿入されている。とりわけ家持の歌は作品を読み終えた時にラストの顛末を暗示する伏線だったことに気づかされる。 
 坦々とした透明感のある静かな作品だった。