追憶「ローマ人の物語紀行」③多神教の民の精神風土2024年02月08日

 ギリシャの神殿を思わせるパンテオンに、河の神をかたどった真実の口に、ローマの街角には数々の神が宿っている。多神教の民であるローマ人は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教に代表される一神教と異なり、一元的な倫理道徳や戒律を求めることはない。
 カエサルによるローマの地中海世界の覇権が、多人種、多民族、多文化、多宗教、多言語に分かれた人々を、なぜ長きに渡って統治できたのか。パクス・ロマーナと呼ばれた人類史上初めての200年にも及ぶ世界統治を可能にしたものは何だったのか。
 「多神教の民・ローマ人」というキーワードがその謎を解く鍵として浮かび上がってくる。
 ローマによる征服民族の統治は、伝統的に属州統治という自治方式が踏襲されている。一神教的な中央集権的一元支配でなく、征服民族の文化、宗教、言語を容認しながら軍制や税制で統治の枠組を形成する。この方式はより優れた形でカエサルにも踏襲され、広大なローマ帝国の版図を支えた。その根底にあるものこそ多神教の民の精神風土ではないか。