旅行・自分史(幼少期)2013年02月07日

 旅の醍醐味は、非日常の世界に遊ぶことだと思う。旅先での初めて見る美しい風景や珍しい体験が感動をもたらす。日々の平坦な日常では決して味わえないシーンが、その後の人生に良き思い出や追憶を残してくれる。
 私にとっての最初の旅の思い出は、小学校低学年にさかのぼる。小学時代は毎年夏休みの20日間ほどを弟と二人で叔母の家で過ごした。実家の姫路から30kmほど北西にある山合いの町・山崎町は私にとって第二の故郷といった郷愁がある。母親に連れられて神姫バスの姫路ターミナルに行くと、そこから子ども二人でバスに乗車する。山崎ターミナルには叔母か年嵩の従兄たちが待ってくれていた。町の雰囲気が漂う街道沿いの実家と違い、山崎は山や川や池や田圃に囲まれた自然いっぱいの里山だった。同年代の男の子たちと冒険に満ちた遊びに興じた思い出深い非日常の旅だった。
 小学校高学年になって、突然もうひとつの冒険の旅が訪れた。近所の駄菓子屋で、弟が籤引き付き駄菓子の大当たりを引いてしまった。確かカバヤの玩具菓子の景品だったと思う。何と!大阪の飛行場からの遊覧飛行が景品だった。昭和30年頃のことである。庶民が飛行機に乗ることなど及びもつかない時代だった。実は弟とはいえ双子の兄弟だった。生まれてこの方、何から何まで全て一緒というのが両親の教育方針だった。今回も例外は許されない。弟だけを行かせるわけにはいかないと、親たちは様々な方策を講じたようだ。結局、兄弟二人で出かけることになった。今にして思えば親たちはどんな手を使ったのかと感心する他ない。
 八尾飛行場からの遊覧飛行だった。搭乗したのは零戦のようなプロペラ機だった。風防の付いたコックピットの操縦席の後ろのシートに乗せられた。猛烈な風切り音の中で操縦者が後方の子どもたちに向かって大声でガイドしてくれていたことが今も脳裏に焼きついている。わずか10数分の飛行だったと思う。それでもこれまでの人生で最も忘れ難い非日常との遭遇の旅だったことはまぎれもない。